理想郷


魔法の、V



ハリー・ポッターが結成したダンブルドア軍団とかいう集まりはレイブンクローのチョウ・チャンの告発により幕を閉じた。噂によれば尋問に真実薬を使ったとか言われている。魔法を教えないという理不尽な教育の中では確かにハリー・ポッターの行動は理解出来る部分があったが、バレた以上全てが悪い方向に向かうのは確実だった。
ダンブルドア先生が校長では無くなった、代わりにあのガーゴイル女が校長となり、横暴さに拍車がかかっていった。生徒にとっては学校にいること自体が苦痛になった。持っていても意味をなさなくなってきた杖、笑顔が消えていく。そんな中試験は訪れた。


ガリガリと羽根ペンで文字を書く音が響く。満足げに前に立ち生徒を見るアンブリッジ。私の斜め前にいる葛葉は頭をガシガシとかきながらテストを解いていた。すると遠くからドーンッという音がし始めた。みな後ろを振り返る。女は恐る恐る扉に近づき外に出る。すると突如として放棄に乗った2人組が現れたのだ。それはウィーズリーの双子。ウィーズリー製品を禁止にされ事ある事に罰則を食らっていた2人が好き放題し始めた。中国の龍の様なものがアンブリッジを追いかける。生徒は自由だと言わんばかりに中庭にかけ出す。私も葛葉も外に出る。拍手喝采、そんな中、2人で手を繋いで駆け出した。誰もいないであろうハグリッドの小屋の方向に走って走って、走りきった。息が上がり、どちらの心臓の音が分からないくらいに切れた。
「はぁ、はぁ…疲れた」
「もう走りたくない」
「そうね…」
ただ何も無い草の上に座って息を整える。久しぶりにこんなに近くで葛葉と話した。最近は男女が話すだけで何を言われるか分からない状態だったから、同じ寮なのに梟でやりとりした事もあった。ふと、左手を取られ、荒れたそこを撫でられる。大体の生徒は理不尽な罰則を食らっていた手がボロボロになっていた。
「…どうかした?」
「いや…」
何かに対する怒りからか、痛いほどに手を握られる。ギリッという音がするように歯を食いしばっていた。
「葛葉…?」
「クソ腹立つ」
「そんなに?」
「もの凄く腹立つ」
「なんで…?」
そう聞いた途端、葛葉は口を閉じて黙る。そして深く考える用に目をつぶった。
「血が」
「うん…?」
「血が流れたことに腹が立つ」
一体何を言っているんだ。そんな正義のヒーロー見たいな事をいう人だっただろうか。
「俺が今から言うこと、絶対人に言うなよ」
「…わかった」
私は葛葉の真っ直ぐとした眼差しに弱いな。なんて思いながら彼が紡ぐ言葉に耳を傾けた。



人間ではない。そうラグーザの一族は噂されていた。日本から来た私は彼らについてよく知らないし、噂にもあまり興味がなかった。だから気にしていなかった。
「俺は人間じゃない」
そういう説明を葛葉から受けた。吸血鬼の一族で、古来よりイギリスに居ること。吸血鬼の中でも位が高い一族であること。これを知っているのは魔法省のお偉いさんやダンブルドア先生、そして私だけであると。
「なんで話そうと思ったの?」
「名前の血が飲みたくなった」
「は…?」
「…それと、言っても大丈夫だろうと思って」
「そ、そう…」
血を飲みたくなったという彼の言葉が木霊する。どう返すことが正解なのだろうか。飲ませてあげればいいのか。なにせ吸血鬼とは初対面だ。
「えっと…血を飲みたい?」
「そう」
「えっと…飲んでみる?」
「…いいの?」
「少しなら…?」
「ん」
左手を取られ、小指の先を噛まれる。プツッと鋭い牙が刺さる。痛みと、なにか違うものが同時に攻めてくる。目をつぶってそれち耐える。少し経てば口から離れ、痛みも消えた。
「ん、ごちそうさん」
「…終わり?」
「これ以上飲むなら首筋から飲むし、飲みすぎると倒れる」
「そっか」
不思議と噛まれた部分から新たな血は出てきていない。まじまじとその姿を見ていると満足気な顔で何か言い始める。
「これで他の奴らに狙われる心配はないな」
「狙われる…?」
「吸血鬼には同胞が狙ってる人間を横取りしようとする奴らがいるから、先にマーキングするんだよ」
「はっきり言って…?」
「俺のものになった」
「説明するの遅すぎじゃない?」
「分かってるだろうと思って」
それはきっと今までの事を言っているんだろう。見て見ぬふり、気付かぬ振りをしてきたそれを確信に変える言葉。何かが、スっと降りる感覚がする。納得が言ったというか、解ったといった感じ。
「…分かってはいたけど、言うと思わなかった」
「俺のことヘタレかなんかだと思ってるわけ」
「そういう訳ではないけど」
「そろそろ帰ろうぜ、罰則受けるのめんどいし」
「うん」
アンブリッジの目が届かないであろう所まで手を繋いで歩いた。遅い足並みで中庭まで戻るとアンブリッジが今学校に居ないということで、生徒がやりたい放題遊んでいた。そのまま日は暮れ、その日はいつになく先生たちも楽しそうに食事をしていた。きっと今まで我慢していたのだろう、カップルは隣同士で食事をとり、音楽を聞いたり、ウィーズリーの双子がばらまいた玩具で遊んだり、今まで通りのホグワーツが戻ってきた。


次の日、日刊預言者新聞は今までの記事とは真逆の記事を出した。「ハリーポッター、ダンブルドア疑い晴れる」「例のあの人が復活、ファッジ辞職か」「アンブリッジ停職」
ハリーポッターは嘘つきのレッテルは無くなり、世の中は再び例のあの人に怯える時代が来た。それでも生徒はアンブリッジという枷がなくなり自由になった。そのまま時間は過ぎ休暇になる。列車に行く際に葛葉が言う。
「名前、今年の夏家くる?」
「え?」
「どうせ暇だろ?」
「あ〜…葛葉の両親が良いなら行こうかな」
「良いっていうから、また梟送るわ」
「うん、待ってる」
「どうせなら俺の家からホグワーツ行けばよくね?」
「流石にそれは申し訳ないよ」
いつもはそれぞれ違うコンパートメントに入るのに今回は同じ場所に入って、葛葉はずっと夏休暇をどう過ごすか、何をするかを話していた。
「パーティがあるからそん時来いよ」
「それ吸血鬼の方々が来るんじゃ…?」
「マーキングしてるから手は出せないし、ラグーザ家のパーティでそんな事したら大目玉で社会的死が待ってる」
「そっか…」
私が思っている以上に吸血鬼って縦社会なんだな、そんな所に行っていいものなのか。でも葛葉はもう来るだろ?見たいな顔をしている。行くしかない。
「わかった、行くよ」
「ん」
そうぶっきらぼうに返事する葛葉の耳は少しだけ赤くなっていた。そのまま列車はキングス・クロス駅へと向かった。



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