02-02

「……重い」

 二人暮らしのことを考えて買い物をしていたら、予想以上の大荷物になった。
 食材、弁当箱、歯ブラシ……ほかにも切れかけていたシャンプーや洗剤などを揃えていたら、持つのも大変なほど、エコバッグがパンパンに膨れ上がった。

 もう少し計画的に買い物をしないとなぁと思っても、すぐ失敗するんだよね。

 やっとの思いで家に帰ってリビングに入ると、綾崎くんはニュースを見ていた。そして……私を見て、目を丸くした。

「ごめん、遅くなって。すぐ作るから」

 キッチン側のカウンターに置いて、手洗いうがいをしてからエプロンを付け、作り始める。本当は買った物を片付けたいけど、綾崎くんのことを考えると料理が先だ。
 今まで一人分を作っていたから楽だけど、二人分となると一品だけじゃ物足りない。
 グラタンをオーブンで焼いている間に唐揚げとポタージュスープを作って……。

 ……今まで夕飯は一品だけだったから、思ったより大変だった。
 でも、達成感を滲ませて配膳して、綾崎くんに声をかける。

「綾崎くん、できたよ」

 声をかければリビングのソファーからダイニングテーブルに移動して、一緒に座る。

「じゃあ、いただきます」

 いつも通り両手を合わせて、食べ始めた。
 味はいつも通り。綾崎くんを見ると、一口目で固まってしまった。

 あ、あれ……?

「口に合わなかった……?」
「……」

 不安になって訊ねると、綾崎くんは首を横に振ってグラタンを冷ましながら口に運んだ。
 夢中になっている様子からおいしいのだとわかって、安心感から頬が緩んだ。

 今まで誰かと食べるなんて、学校で紅羽だけだった。だから、この時間は新鮮で、心が温まるほど嬉しかった。

 スープをおかわりした綾崎くんが食べ終わる頃に私も食べ終わって、食後の紅茶を淹れる。
 あ、ノートになかったけど……紅茶は大丈夫かな?

「綾崎くん、紅茶は大丈夫?」
「……」

 こくりと頷いた綾崎くんにほっとして、ティーカップに紅茶を注いだ。
 ソーサーの縁に砂糖のスティックとミルクを載せて出せば、綾崎くんは二つともどけたので片付けた。

 綾崎くん、私と同じでストレート派なんだ。イメージに合うけど……。

「コーヒーは飲める?」

 試しに訊けば、綾崎くんは顔をしかめた。

「……了解」

 コーヒーは嫌い……と。

 ノートに書き加えて棚に置くと、綾崎くんの視線を感じた。

「どうしたの?」
「……この紅茶の銘柄は?」

 ……綾崎くんの声、初めて聞いた。
 落ち着きのある美青年と思わせるほど、声優に向いているくらい綺麗な美声だ。

「レディグレイっていうの。中国産が多いから、これは私の手作り」
「手作り?」

 拒絶の一点張りだった目が軽く見開かれた。驚く表情も新鮮で、私は笑顔になる。

「どうかな?」
「……気に入った」

 素直に言ってくれるあたり、根はいい子なのだろう。
 嬉しくてはにかみ、手作り紅茶の素を冷蔵庫にしまった。

「先にお風呂に入っていいよ。綾崎くんの歯ブラシとコップはこれ。タオルは好きに使っていいから」

 出発前にお風呂を沸かしておいたから大丈夫のはず。
 ほぼ一人暮らしだった昨日まではシャワーで済ませていたけど……。

 紅茶を飲み終わった綾崎くんは、歯ブラシとコップを持って風呂場へ行った。
 綾崎くんがお風呂に入っている間、私は食器と調理器具を洗ったり、ベランダから取り込んだ洗濯物を片付けたりして、その日の家事の大半を終わらせた。

「ふぅ……」

 一息ついて、この前買ったばかりの漫画の最新刊でも読もうと開いた、ちょうど時。

「上がったぞ」
「あ、うん」

 お風呂から上がった綾崎くんが声をかけてくれて、そっちへ目を向けると……心臓に悪いものを見てしまった。

 部屋着なのか、大きめのイタリアンカラーの白いワイシャツと黒いスウェットパンツを着ていた。
 あ、イタリアンカラーのワイシャツは、襟と衿台が一枚仕立てで、V字のネックラインを形成している衿型。襟元の第一ボタンがない、ネクタイをつけないオシャレシャツ。

 それはいい。問題は着こなし方。

 風呂上がりで暑いのか、第三ボタンだけを留めている。そのせいで、鎖骨や胸部、引き締まった腹部などが見えている。しかも、タオルで髪を拭いている姿は……色っぽく見えてしまう。フワッとした指通りの良さそうな猫っ毛も、今は濡れているから肌に張り付いている。

 ……余計に心臓に悪いよ。

「どうした?」

 顔に手を当てて俯いている私に気づいた綾崎くんが訊ねる。

「……うん。ちょっと疲れたみたい。お風呂に入ってくるね」

 できるだけ平静さを保って、綾崎くんの横を通ってリビングから出た。
 部屋に戻って着替えを持ったところで、盛大な溜息を吐いた。

「ハァー……大丈夫かなぁ、私……」

 いろんな意味で、前途多難な気がしてきた。


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