▼ 02-02
「……重い」
二人暮らしのことを考えて買い物をしていたら、予想以上の大荷物になった。
食材、弁当箱、歯ブラシ……ほかにも切れかけていたシャンプーや洗剤などを揃えていたら、持つのも大変なほど、エコバッグがパンパンに膨れ上がった。
もう少し計画的に買い物をしないとなぁと思っても、すぐ失敗するんだよね。
やっとの思いで家に帰ってリビングに入ると、綾崎くんはニュースを見ていた。そして……私を見て、目を丸くした。
「ごめん、遅くなって。すぐ作るから」
キッチン側のカウンターに置いて、手洗いうがいをしてからエプロンを付け、作り始める。本当は買った物を片付けたいけど、綾崎くんのことを考えると料理が先だ。
今まで一人分を作っていたから楽だけど、二人分となると一品だけじゃ物足りない。
グラタンをオーブンで焼いている間に唐揚げとポタージュスープを作って……。
……今まで夕飯は一品だけだったから、思ったより大変だった。
でも、達成感を滲ませて配膳して、綾崎くんに声をかける。
「綾崎くん、できたよ」
声をかければリビングのソファーからダイニングテーブルに移動して、一緒に座る。
「じゃあ、いただきます」
いつも通り両手を合わせて、食べ始めた。
味はいつも通り。綾崎くんを見ると、一口目で固まってしまった。
あ、あれ……?
「口に合わなかった……?」
「……」
不安になって訊ねると、綾崎くんは首を横に振ってグラタンを冷ましながら口に運んだ。
夢中になっている様子からおいしいのだとわかって、安心感から頬が緩んだ。
今まで誰かと食べるなんて、学校で紅羽だけだった。だから、この時間は新鮮で、心が温まるほど嬉しかった。
スープをおかわりした綾崎くんが食べ終わる頃に私も食べ終わって、食後の紅茶を淹れる。
あ、ノートになかったけど……紅茶は大丈夫かな?
「綾崎くん、紅茶は大丈夫?」
「……」
こくりと頷いた綾崎くんにほっとして、ティーカップに紅茶を注いだ。
ソーサーの縁に砂糖のスティックとミルクを載せて出せば、綾崎くんは二つともどけたので片付けた。
綾崎くん、私と同じでストレート派なんだ。イメージに合うけど……。
「コーヒーは飲める?」
試しに訊けば、綾崎くんは顔をしかめた。
「……了解」
コーヒーは嫌い……と。
ノートに書き加えて棚に置くと、綾崎くんの視線を感じた。
「どうしたの?」
「……この紅茶の銘柄は?」
……綾崎くんの声、初めて聞いた。
落ち着きのある美青年と思わせるほど、声優に向いているくらい綺麗な美声だ。
「レディグレイっていうの。中国産が多いから、これは私の手作り」
「手作り?」
拒絶の一点張りだった目が軽く見開かれた。驚く表情も新鮮で、私は笑顔になる。
「どうかな?」
「……気に入った」
素直に言ってくれるあたり、根はいい子なのだろう。
嬉しくてはにかみ、手作り紅茶の素を冷蔵庫にしまった。
「先にお風呂に入っていいよ。綾崎くんの歯ブラシとコップはこれ。タオルは好きに使っていいから」
出発前にお風呂を沸かしておいたから大丈夫のはず。
ほぼ一人暮らしだった昨日まではシャワーで済ませていたけど……。
紅茶を飲み終わった綾崎くんは、歯ブラシとコップを持って風呂場へ行った。
綾崎くんがお風呂に入っている間、私は食器と調理器具を洗ったり、ベランダから取り込んだ洗濯物を片付けたりして、その日の家事の大半を終わらせた。
「ふぅ……」
一息ついて、この前買ったばかりの漫画の最新刊でも読もうと開いた、ちょうど時。
「上がったぞ」
「あ、うん」
お風呂から上がった綾崎くんが声をかけてくれて、そっちへ目を向けると……心臓に悪いものを見てしまった。
部屋着なのか、大きめのイタリアンカラーの白いワイシャツと黒いスウェットパンツを着ていた。
あ、イタリアンカラーのワイシャツは、襟と衿台が一枚仕立てで、V字のネックラインを形成している衿型。襟元の第一ボタンがない、ネクタイをつけないオシャレシャツ。
それはいい。問題は着こなし方。
風呂上がりで暑いのか、第三ボタンだけを留めている。そのせいで、鎖骨や胸部、引き締まった腹部などが見えている。しかも、タオルで髪を拭いている姿は……色っぽく見えてしまう。フワッとした指通りの良さそうな猫っ毛も、今は濡れているから肌に張り付いている。
……余計に心臓に悪いよ。
「どうした?」
顔に手を当てて俯いている私に気づいた綾崎くんが訊ねる。
「……うん。ちょっと疲れたみたい。お風呂に入ってくるね」
できるだけ平静さを保って、綾崎くんの横を通ってリビングから出た。
部屋に戻って着替えを持ったところで、盛大な溜息を吐いた。
「ハァー……大丈夫かなぁ、私……」
いろんな意味で、前途多難な気がしてきた。
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