02-03

 お風呂から上がってお茶を飲もうとリビングに入ったところ、綾崎くんがソファーで読書していた。

 ……何で、私の漫画を? 綾崎くんって理知的に見えるから、もっと哲学的な本を読むのかと……。

「綾崎くんもその漫画、好きなの?」
「初めて見るが……気に入った」

 ……癖のある口調だなぁ。

「あとで一巻からその巻まで持ってくるよ」
「いいのか?」
「うん」

 顔を上げてこちらを見た綾崎くんに笑顔で頷く。すると、綾崎くんが目を丸くして固まった。

 ……ん? ……どうしたのかな?

 私の服装は、ダボダボしすぎない程度の大きな白いブラウス、薄い紺色のスウェットパンツ。ブラウスのボタンは綾崎くんと違って、第一ボタン以外のほとんどは閉じている。髪は生乾きだけど……。

 まぁ、いっか。何に驚いているのかわからないけど、今は喉渇いているし。

 冷蔵庫から麦茶を取り出して飲んで、一息つく。

「ふぅ……よし」

 あとは漫画だ。
 二階にある私の部屋は十二畳くらいある。ベッドもダブルサイズで、反対側にある壁一面が本棚。その中段に、あの漫画の一巻から新刊書までを取り出す。
 ふと、漫画の内容を思い出す。

 これは少年漫画の中で珍しいダークファンタジー要素がある、聖戦をモチーフにした漫画。でも、少年漫画らしい表現がある。登場人物や背景の絵も綺麗だから読みやすい。ただ、初刊からどんどん書き方が変わっていくのが難点だけど。

 これを一目で気に入ったのなら、青年漫画も気に入るかも?

 そう思ってその一巻も持ってリビングに降りて、綾崎くんの所へ行く。
 目元に手を当てて俯いているけど、疲れたのかな?

「持ってきたけど……大丈夫?」
「……ああ……そっちの方こそ大丈夫か?」

 顔を上げた綾崎くんは、一瞬固まったかと思ったら早口で訊いてきた。

「重くないか」
「買い物の時よりマシ」

 綾崎くんが読んでいるものを合わせて、全部で二十五巻もある。持てなくない重さだから、私的には大丈夫だ。
 ドサッと重みのある音を立てて床に置き、一番上に載せている漫画を取って見せる。

「これ、不思議の国と、鏡の国をモチーフにしたダークファンタジーの漫画だけど、これも試しに読んでみる?」
「……それはアニメにもなった漫画だな」

 あ、知っているんだ。でも、今の言葉からは読んだことがないように受け取れる。

「私はアニメより漫画の方が好きだよ。キャラに合う声が聴けるアニメもいいけど、やっぱり漫画の方が面白いから」

 二脚のソファーの間にある低いテーブルに置くと、綾崎くんは興味を持ち始めて手に取る。

「部屋に持って行ってもいいよ。夜更かしには気をつけてね。じゃあ、おやすみなさい」
「……ああ…………おやすみ」

 すごく小さな声で言ってくれた、「おやすみ」という言葉。
 ほとんど聞くことがなくなったその言葉が嬉しくて、自然と笑顔になった。
 でも、これ以上は読書の邪魔になるから、すぐに部屋へ戻った。


 今日はいい夢を見られるかもしれない。
 そんなことを思いながら、長く感じる一日を終えた。


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