▼ 03-04
今日も学校の中庭でお弁当を食べることにした。
我が校――成海学園は、ちょっと特殊な私立校だ。
自由性があるから、成績優秀者は染髪やカラコン、薄化粧をしても咎められない。制服の改造と厚化粧と香水は厳禁だけど。でも、それは成績優秀者のみだから、成績が悪い生徒は対象外になり注意される。
この学校は実力が物を言うから、まさに弱肉強食を体現していた。
でも、白で統一したハイソサエティーのような校舎も制服の種類も人気があって、入学生が殺到している。優秀ならギャルもチャラ男も許容されるほど自由性がある。その代わり偏差値はちょっと高めだけど、でも、努力しがいがある。
まぁ、そんな感じで贅沢な学校だから、当然敷地内もかなり整っている。特に中庭は庭園になっていて、四季折々の草花を植えられている。
アイビーや小花が咲く蔦を編み込んだアーチを潜った先には小さな噴水があって、噴水に向かい合うように四隅にベンチが備え付けられている。
そこが、私達の特等席。
ベンチに座ってお弁当を広げると、紅羽が感嘆の吐息をこぼした。
「はぁー……本当に怜の弁当はおいしそうだよな」
「紅羽のだっておいしいよ。そこらの料理人より断然おいしい」
「怜だって、冷めてもおいしいおかずを作るの得意じゃん」
いつものように褒め合って、いただきます、と両手を合わせて食べた。
「怜、唐揚げちょーだい」
「いいよ。じゃあ、私は生春巻き」
おかずを交換し合って食べると、お互い笑顔になる。
やっぱり紅羽のご飯はおいしい。私も精進しなくちゃね。
その時、噴水広場に誰かが来た。
その誰かとは……綾崎くんと立花くん。
「お前は……翼と登校してきた若桜だな?」
……立花くんが直球で言った。
面倒だけど、誤魔化さないといけないなぁ。
「たまたまだよ」
素っ気なく言って、卵焼きを食べる。
立花くんは鋭い目を若干細めたけど、それ以上追及しないで反対側のベンチに座った。
「珍しいな。お前の母親が弁当を作るなんて」
「……時間が取れるようになったらしい。今後から弁当を作るそうだ」
……私が作ったお弁当は、恵さんが作ったことになっているんだ。誤魔化すにはちょうどいいけど、立花くんに通用するかな? 紅羽曰く、立花くんは私の次に頭がいいらしいから。ちなみに紅羽はその次の四番目。
「……うまそうだな。俺にも一つくれ」
噴水の水が流れる音もあるのに、立花くんの声がやけに大きく聞こえた。
私は平静を装うけど、紅羽が私に話しかけた。
「怜、どうした?」
「え? ……何が?」
「いや、ちょっと表情が硬くなった気がして……気のせいかな」
……さすが、私をよく見てるね。
私は苦笑して白いお米と一緒に唐揚げを食べる。
ほかにも金平ごぼうやトマト、うずらの卵とウィンナーを爪楊枝で刺しておでんっぽく作ったものが入っている。ちなみにデザートは一口サイズに輪切りにしたバナナだ。本当は林檎がよかったけど、塩水につけると美味しさが半減するから断念したの。
綾崎くんのお弁当も似たようなものが入っているけど、それにキュウリと人参、林檎を入れたポテトサラダを加えている。
綾崎くんの嫌いな食べ物はプチトマトとピーマンと山椒。そこに気をつければ大丈夫。
「恵さんは、お前の人参嫌いを忘れていたか?」
……あれ? ノートに人参って書いてなかったのに……嫌いだった!?
緊張気味に聞き耳を立てていると……。
「……これは食べれる」
そう言って、食べる気配を感じた。
「うまいのか?」
「ああ、うまい」
……よかった。即答したから、きっと本当なのだろう。
でも一応、帰ったら謝らないと。
安堵からの息を吐き出したいけど我慢してデザートのバナナを食べ、弁当箱に蓋をした。
「紅羽、来週の月曜日は何がいい?」
「じゃあ、アップルパイ」
「……難易と高いけど、まぁ……頑張るよ」
明日は土曜日だから、その日に買って翌日に作ろう。
予定を立てて、私達は教室に戻った。
無事に放課後になり、紅羽にまた来週と挨拶して学校を出た。
先に家に帰った私は、買い物の準備をして出発しようとした。
けど、ちょうど玄関から出ようとした時に綾崎くんが帰ってきた。
「あ、おかえりなさい」
「……買い物か?」
「うん。じゃあ、いってき」
「俺も行く」
「ま……え?」
扉を開けようとしたら、肩を掴まれて止められた。
ていうか、ちょっと待って……綾崎くんも買い物に行く?
「また大荷物になったら困るだろう」
「え、いや……今回はそんなにならないと……」
「いいから、少し待て」
綾崎くんは短く告げると、一旦荷物を置いて着替えてきた。
これは……梃子でも動かないだろうなぁ。
「……あ、そうだ。お弁当、人参入れてごめんね」
眉を下げて両手を合わせて謝る。すると、綾崎くんは私の頭をクシャっと撫でた。
「あれはうまかったから、また作ってくれ」
……まさか頭を撫でられるとは思わなかった。しかも、またって……。
「……うん。また作るね」
すごく嬉しくて、胸の奥が熱くなった。
これまでの生活に、こんなに嬉しいことはなかった。
綾崎くんが来てくれて本当によかったって、心から思うよ。