03-04

 今日も学校の中庭でお弁当を食べることにした。

 我が校――成海なるみ学園は、ちょっと特殊な私立校だ。
 自由性があるから、成績優秀者は染髪やカラコン、薄化粧をしても咎められない。制服の改造と厚化粧と香水は厳禁だけど。でも、それは成績優秀者のみだから、成績が悪い生徒は対象外になり注意される。
 この学校は実力が物を言うから、まさに弱肉強食を体現していた。

 でも、白で統一したハイソサエティーのような校舎も制服の種類も人気があって、入学生が殺到している。優秀ならギャルもチャラ男も許容されるほど自由性がある。その代わり偏差値はちょっと高めだけど、でも、努力しがいがある。

 まぁ、そんな感じで贅沢な学校だから、当然敷地内もかなり整っている。特に中庭は庭園になっていて、四季折々の草花を植えられている。

 アイビーや小花が咲くつたを編み込んだアーチを潜った先には小さな噴水があって、噴水に向かい合うように四隅にベンチが備え付けられている。
 そこが、私達の特等席。

 ベンチに座ってお弁当を広げると、紅羽が感嘆の吐息をこぼした。

「はぁー……本当に怜の弁当はおいしそうだよな」
「紅羽のだっておいしいよ。そこらの料理人より断然おいしい」
「怜だって、冷めてもおいしいおかずを作るの得意じゃん」

 いつものように褒め合って、いただきます、と両手を合わせて食べた。

「怜、唐揚げちょーだい」
「いいよ。じゃあ、私は生春巻き」

 おかずを交換し合って食べると、お互い笑顔になる。
 やっぱり紅羽のご飯はおいしい。私も精進しなくちゃね。

 その時、噴水広場に誰かが来た。
 その誰かとは……綾崎くんと立花くん。

「お前は……翼と登校してきた若桜だな?」

 ……立花くんが直球で言った。
 面倒だけど、誤魔化さないといけないなぁ。

「たまたまだよ」

 素っ気なく言って、卵焼きを食べる。
 立花くんは鋭い目を若干細めたけど、それ以上追及しないで反対側のベンチに座った。

「珍しいな。お前の母親が弁当を作るなんて」
「……時間が取れるようになったらしい。今後から弁当を作るそうだ」

 ……私が作ったお弁当は、恵さんが作ったことになっているんだ。誤魔化すにはちょうどいいけど、立花くんに通用するかな? 紅羽曰く、立花くんは私の次に頭がいいらしいから。ちなみに紅羽はその次の四番目。

「……うまそうだな。俺にも一つくれ」

 噴水の水が流れる音もあるのに、立花くんの声がやけに大きく聞こえた。
 私は平静を装うけど、紅羽が私に話しかけた。

「怜、どうした?」
「え? ……何が?」
「いや、ちょっと表情が硬くなった気がして……気のせいかな」

 ……さすが、私をよく見てるね。

 私は苦笑して白いお米と一緒に唐揚げを食べる。
 ほかにも金平ごぼうやトマト、うずらの卵とウィンナーを爪楊枝で刺しておでんっぽく作ったものが入っている。ちなみにデザートは一口サイズに輪切りにしたバナナだ。本当は林檎がよかったけど、塩水につけると美味しさが半減するから断念したの。

 綾崎くんのお弁当も似たようなものが入っているけど、それにキュウリと人参、林檎を入れたポテトサラダを加えている。
 綾崎くんの嫌いな食べ物はプチトマトとピーマンと山椒。そこに気をつければ大丈夫。

「恵さんは、お前の人参嫌いを忘れていたか?」

 ……あれ? ノートに人参って書いてなかったのに……嫌いだった!?
 緊張気味に聞き耳を立てていると……。

「……これは食べれる」

 そう言って、食べる気配を感じた。

「うまいのか?」
「ああ、うまい」

 ……よかった。即答したから、きっと本当なのだろう。
 でも一応、帰ったら謝らないと。

 安堵からの息を吐き出したいけど我慢してデザートのバナナを食べ、弁当箱に蓋をした。

「紅羽、来週の月曜日は何がいい?」
「じゃあ、アップルパイ」
「……難易と高いけど、まぁ……頑張るよ」

 明日は土曜日だから、その日に買って翌日に作ろう。
 予定を立てて、私達は教室に戻った。


 無事に放課後になり、紅羽にまた来週と挨拶して学校を出た。
 先に家に帰った私は、買い物の準備をして出発しようとした。
 けど、ちょうど玄関から出ようとした時に綾崎くんが帰ってきた。

「あ、おかえりなさい」
「……買い物か?」
「うん。じゃあ、いってき」
「俺も行く」
「ま……え?」

 扉を開けようとしたら、肩を掴まれて止められた。

 ていうか、ちょっと待って……綾崎くんも買い物に行く?

「また大荷物になったら困るだろう」
「え、いや……今回はそんなにならないと……」
「いいから、少し待て」

 綾崎くんは短く告げると、一旦荷物を置いて着替えてきた。
 これは……梃子でも動かないだろうなぁ。

「……あ、そうだ。お弁当、人参入れてごめんね」

 眉を下げて両手を合わせて謝る。すると、綾崎くんは私の頭をクシャっと撫でた。

「あれはうまかったから、また作ってくれ」

 ……まさか頭を撫でられるとは思わなかった。しかも、またって……。

「……うん。また作るね」

 すごく嬉しくて、胸の奥が熱くなった。


 これまでの生活に、こんなに嬉しいことはなかった。
 綾崎くんが来てくれて本当によかったって、心から思うよ。


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