▼ 03-03
学校に到着すると、綾崎くんは先に教室に行く。
私は自分のペースで教室に向かっていると、ドンッと背中に衝撃が走った。
「怜! どうしたんだ!?」
男の子寄りの中性的な口調で、紅羽なのだと察した。
ていうか、どうしたって何が?
「な、な、なんで綾崎と……!?」
「途中で偶然会っただけ」
「それでも一緒に登校する!?」
危ない。紅羽がここまで混乱するなんて……うん、これは全力で隠そう。
「たまたまだよ」
心の中で決意した私は、苦笑いを浮かべて紅羽を宥める。
だけど、紅羽の混乱は治まらない
「でもっ、あの誰も寄せ付けない綾崎が……!」
「はーい、そこまでー。早く教室に行くよー」
「棒読み!?」
いちいち突っ込んでくれる紅羽は面白いね。
普段から男子制服を着て男装の麗人と呼ばれているけど、ちゃんと女の子らしいところがある紅羽だから、今回のことは衝撃が強すぎたのだろう。私も気を付けないとね。
教室に入って荷物を席に置いた時、廊下側の一番前の席にいる綾崎くんに、一人の少年が話しかけていることに気づく。
耳を隠すほどの焦げ茶色の髪に、鋭い目付きに合う緑色の瞳が特徴的な、クールビューティーと表現できる容姿端麗の美少年。身長は綾崎くんより少し低いけど紅羽より高い。目上は敬っているけど、不遜な態度がちらついているらしい。
綾崎くんの唯一の親友、立花千迅。綾崎くんが心を許す、数少ない人物だ。
「翼、正直に話せ」
「だから偶然だ。俺に関係ない」
煩わしそうに言っているあたり、私と同じことになっているのだろう。
まぁ、学校で関わることはないから、そっちはそっちで頑張ってね。
――キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴って、席に着く生徒達。
教室に入ってくる担任の女性教師、唐沢美咲先生。
茶色のロングヘアにダークブラウンの瞳の美女で、男子達の憧れ。
生徒達は親しみを込めて、美咲先生と呼んでいる。
「皆さん、おはようございます。出席を取りますから、呼ばれたら返事してくださいね」
ニコリと笑って丁寧口調で言う美咲先生に、男子達は見とれる。
例外はやっぱり、綾崎くんと立花くん。立花くんなんて頬杖をついて、うたた寝しているし。
「若桜さん」
「はい」
あいうえお順だから、私が最後に呼ばれる。ちなみに席は窓際の最後尾という特等席。
でも、暖かな日差しが心地よくて、ついついうたた寝してしまう。
眠くなるけど、我慢して美咲先生の話を聞いて授業の時間を迎えた。
今日の1限目は数学。その次に現国で、次に英語。
英語の授業で一度だけ欠伸をしたら、英語の女性教師である金本紀美子先生が私を睨んできた。
金本先生は髪にパーマをかけている上に、化粧も少し濃い。容姿は中の上で、美咲先生に劣る。それでも普通に綺麗だと思う。厚化粧がなければ、だけど。
「……若桜さん、ずいぶんと眠そうじゃないの」
刺々しい声に、眠気の残る目を擦る。周囲を見ると、私と違ってうたた寝や完全に寝ている子だっている……なのに、どうして私だけ?
「この次のページの英文を全て読んでくれるかしら?」
……まだ習っていないところを読ませるなんて、性格悪いね。
口に出さず、私は席を立って読み上げた。ついでに翻訳まですると、金本先生の顔が真っ赤になる。
「――これでいいですか?」
「っ……ええ、いいわ。座ってちょうだい」
「あ、それと……生徒への注意は平等にお願いします。特に男子に」
言いたいことを言ってから席に着いて、ふと気づく。
不真面目な生徒のほとんどが男子生徒。それでも今まで一度も男子生徒を当てたことがない。
もしかして男の子が好きだから、不真面目な女の子を当てているのかな? うわぁ、差別だ。
それからというもの、金本先生は授業が終わるまで私に目を合わせなかった。
授業が終わると、紅羽が私の肩を叩く。
「さすが怜。英語もペラペラだな」
「両親のおかげだよ。あの男好きに効果があってよかった」
「え、金本って男好きだったんだ」
意外そうな顔をする紅羽に、思ったことを口にする。
「だって、不真面目な男子に一度も注意したことがないんだよ? 女の子ばかり当てているから、何となくだけど」
「……確かに。俺、前から金本が好かなかったけど、男好きなら余計嫌いだな」
だよねー、と相槌を打ち、4限目の歴史を終えて昼休みを迎えた。
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