04-04

「千迅に何を言われた」
「……え? あぁ……綾崎くんのことだよ」
「俺のこと?」

 綺麗な柳眉を寄せる綾崎くんに、うん、と頷く。

「本当は綾崎くんから聞きたかったけど、立花くんが綾崎くんの過去を話してくれて」
「……どうしてそれで千迅が笑うんだ」

 せない、という険しい表情になる綾崎くん。内容を知らなかったら、そうなるよね。

「私の感想のせいかな」
「感想? ……どんな」
「綾崎くんの過去を聞いて感じたことは、お疲れ様」

 素直に言うと、綾崎くんは目を丸くした。

「……お疲れ様?」
「うん。人間関係で苦労したけど、ご両親と立花くんのおかげで完全に人間が嫌いにならなかったでしょう? 全てを嫌いになった方が楽になれるけど、つらくても苦しくても、ちゃんと信じられる人を信じてきた。だから『お疲れ様』」

 最後に穏やかに微笑んで言えば、綾崎くんは衝撃を受けたように目を見開いた。
 この二日でいろんな表情を見たけど、ここまで驚いている顔は初めて見る。

 やっぱり、在り来りっていうか……陳腐ちんぷな言葉だからかな?

「ごめんね、陳腐な言葉しか出せなくて」
「……陳腐じゃない」

 謝ると、絞り出すような掠れた声が出てきた。
 驚いて綾崎くんと目を合わせれば、泣きそうな、けれど穏やかな表情をしていた。

「お前は……同情しないんだな」
「……しないよ。同情は時として人の心を傷つけるから……そういうの、嫌いなの」

 そもそも可哀想とか思わない。思えたとしても、ほんの少しだけしか感じられない。

 それに、可哀想という感情は嫌いだ。可哀想って言葉、私も向けられたことがあるから。
 あの時はすごく不快だった。自分を可哀想と思ったことがないのに、同情された。
 初めて虫唾が走ると言えるほど、その言葉が嫌いになった。

 だから、同情という感情は嫌いだ。

 初めて言われた時のことを思い出して表情が険しくなる。綾崎くんはそんな私の頭に手を乗せた。

「カッコイイな、お前は」

 くしゃっと私の頭を撫でた綾崎くんを見ると……小さく、笑っていた。
 まなじりを穏やかに下げて、頬と口元を緩めて。

 初めて見る綾崎くんの笑顔は、綺麗で、カッコよかった。

「……綾崎くんだって、笑うとカッコイイよ」

 自然と穏やかな気持ちになって、笑みを浮かべて褒め返す。
 すると、綾崎くんは口元に手を当てて……驚いた。

「……笑えたのか」
「え、今まで笑ったことないの?」
「小さい頃は笑っていたが……ここ数年は笑ってなかったな」

 ……数年も笑えなかったなんて、どれだけ大変だったんだろう。
 でもまぁ、小さくても数年ぶりに笑えたなら嬉しいよね。

「じゃあ、これからはちゃんと笑えるね」

 まだ二日目だけど、少しずつ変わろうとしている綾崎くん。
 祝福から笑顔で言うと、綾崎くんは泣きそうなほど嬉しそうに微笑んだ。

「……ありがとう、若桜」

 初めて私の名字を呼んだ綾崎くん。
 少しずつ、でも、確かに進んでいる。
 一歩ずつだけど、綾崎くんの心が癒されて成長していけるなら、この同居も悪くないかもしれない。

 ゆっくりと前進していく。そんな綾崎くんがカッコよくて、私もつられて笑った。


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