07-02

 施設の広い厨房を貸し切って、まずはA組のクラスから調理を始める。
 私は2班の子と野菜を剥いて、程よい大きさに切っていく。
 そして……。

「人参は蒸すから、そのままにしてて」
「え、蒸すの?」

 2班の女の子が小さな蒸し器を取り出す私に驚いて訊ねる。

「そうすることで甘くなるの。人参嫌いな人でも食べれると思って」
「へえ……。若桜さんって料理に詳しいんだね」
「これでも料理は得意だから。紅羽も料理上手だよ」

 2班の爽やかそうな男子にそう返すと、彼らは意外そうな目で紅羽を見る。
 気まずくなった紅羽は、不機嫌そうに男子を睨んだ。

「……そんなに意外か?」
「い、いや……って、綾崎も手際いいな……」

 私が人参を蒸している間に、翼は肉と玉ねぎを炒めていく。
 焦げないようにフライパンを動かして、肉と玉ねぎをおどらせるように混ぜる。フライパンの扱いがプロの料理人みたい……。

「俺もたまに作る」

 呟くように男子に言葉を返した翼に、その場にいる全員が沈黙した。

 ……翼が私達以外と話すところ、初めて見た。

「綾崎が……しゃべった……」
「……俺だって話すぞ」

 じろっと男子を睨む。その眼力は鋭かった。
 それよりも、みんなは翼が喋ったことに衝撃が抜けなくて、呆然と翼を見ていた。

「人参できたよ。入れるね」
「ああ」

 十分蒸した人参を入れて混ぜ込むと、次は鍋に入れて立花くんが煮詰めていく。最後に紅羽が味付けして……。

「……うん、完成。美咲先生! できましたー!」

 味見した紅羽が満足そうに頷き、美咲先生に声をかけた。
 周囲を見ると、みんなより私達の班が先に作り終わったようだ。

「早いですね。味は……」

 美咲先生が味見すると、彼女は目を丸くした。

「おいしい……」
「味付けは俺がしました。あと、怜が人参嫌いな人の対策をしてくれたので」
「対策?」
「蒸して甘味を出しました」

 私が簡潔に答えると、美咲先生は驚いた。
 考えていなかったのかな? 人参嫌いな人がいるって。

「人参嫌い……いるんですね」

 あ、やっぱり考えてなかった。そもそも存在を知らなかったのか。

「それでは、できた班からカレーを装って食堂へ行ってください。各自で作ったカレーならおかわりは自由です。1班と2班の組は担任の先生にも配るように」

 美咲先生の合図で、2班が炊いてくれた白いお米とカレーを装って美咲先生に渡し、残りは鍋と炊きたてのお米を持って食堂へ行った。

「それでは、いただきます」

「「「いただきます」」」


 私の音頭おんどにみんなも唱和しょうわして食べ始める。
 すると、2班から声が上がった。

「おいしい!」
「お母さんが作ったカレーよりおいしいね」
「この人参、甘くて食べやすいな!」

 みるみるうちに笑顔になる2班の子達を見ていると、私も嬉しくなって頬が緩む。
 翼を見ると、昨日の夕飯に残した人参と違って、ちゃんと食べてくれていた。

「翼、人参うまいか?」
「ああ」

 立花くんが訊ねると、翼は頷いてくれた。
 ほっと安心して、私も食べ進めた。


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