日常編 * 『雪』の相棒 *
今月の上旬に、綱吉の家にキャバッローネファミリーの10代目ボス跳ね馬ディーノが来た。
迷惑なことに、家の前に大量のスーツの男達がいた。物凄く迷惑。
そしてその週の日曜日に凪の誕生日が来て、ケーキとストーンビーズで作った花のシルバー付きストラップをプレゼントした。
あまり表情を変えない凪の笑顔が見られたし、大切にするって言ってくれて嬉しかった。
クリスマスが過ぎた頃の冬休み。
商店街で買い物をしに来た私は、髪留めを買うためにお気に入りの店に向かっていた。
ふと、その途中で変わった女の子が辺りを見回しながら立ち尽くしていた。
襟足が長い髪を一つに束ねた、左頬に五弁の花のような模様がついた女の子。
あれは……知識にある通りなら、ユニという重要人物。
未来編に出てくるはずの彼女がどうしてここに?
疑問は募るばかりだけど、放っておけなくて話しかける。
「どうしたの?」
「!」
「お母さんとはぐれちゃった?」
優しく問いかけると、女の子は不安げに頷く。
「私は氷崎祈。あなたの名前は?」
「……ユニです」
あぁ、やっぱり……。
まだ幼いアルコバレーノのお姫様のお母さんは、現アルコバレーノのボス。
娘のユニとの時間を大切にしようとしていたのだろう。
「じゃあ、探そう」
「いいんですか?」
「もちろん」
頭を撫でながら接触感応(サイコメトリー)でユニのお母さんの姿を確認して、遠隔透視(クレヤボヤンス)で捜す。
辺りを見回すと、並盛中央公園の近くにある広場にいた。
「行こう」
「はい!」
手を差し出せば、ユニは笑顔で頷いて手を繋いだ。
ユニのペースで歩くこと数分後。商店街を抜けて並盛中央公園の手前に到着すると、背の高い女性を見つけた。
若々しい女性は赤い服とタイトなスカートの上にコートを着ている。
接触感応で視た通り、彼女がユニのお母さんだ。
「お母さん!」
「ユニ!」
ユニが駆け出せば、女性はユニを抱きしめる。
ほっと安心して、私は元の道へ戻ろうと背を向けた――が。
「待って!」
ユニのお母さんに呼び止められた。
立ち止まって振り向くと、女性は私のところに来た。
「ユニを連れてきてくれてありがとう。お礼がしたいけど……」
「え、いえ……いいです。私はただ一緒にいただけですから……」
「それでもユニを守ってくれた事実は変わらないわ」
優しい笑顔で言った女性に、どうしようかと悩む。
その時。
「キュゥン」
足元から獣の澄んだ鳴き声が聞こえた。
驚いて視線を下げれば、ふわふわの体毛を持つ小さな狐がいた。
全身真っ白で、宝石のようなアイスブルーの瞳を持つ、愛らしい狐。
ただし、普通の狐じゃない。なんと、尻尾が九本もあるのだ。
「九尾の……狐?」
目を丸くして凝視していると、狐はジャンプして私の腕にしがみついた。
「えっ、ええ!?」
「……まさか……あなた、雪の適合者なの?」
唐突に問われた内容に目を見開いて女性を凝視する。
私は慌てて常に首に下げている雪のリングと、巾着の中に入れているスノーホワイトのおしゃぶりを取り出す。
女性は目を丸くして驚き、真剣な表情になる。
「私はアリア。あなたの名前は?」
「氷崎祈です」
「祈ちゃん、近くの喫茶店で話してもいいかしら?」
思わぬ展開に驚く。でも、女性――アリアさんの真剣な眼差しに自然と頷いてしまった。
アリアさんは一瞬だけ切ない表情をして、私とユニを連れて有名な喫茶店へ向かった。
暖かな喫茶店でケーキセットを頼んだ女性・アリアさん。
アリアさんは大空のアルコバレーノで、ジッリョネロファミリーのボス。
知っていたけど、改めて聞くとすごいなぁ、と思う。
私もボンゴレファミリーのボスにさせられそうな幼馴染がいることを話すと、かなり驚かれた。
「私のファミリーは初代の頃から、『雪』の適合者が現れるまで管理していたの」
「……それは、『雪』を創った人しか現れなかったんですか?」
「ええ。その狐は『雪』の創始者の相棒だったと言い伝えられているわ」
『雪』の創始者……氷沢雪那の相棒。
なんだかすごいことになってきたなぁ。
「『雪』の適合者ということは、創始者と同じ力を?」
「はい。それと複数の超能力を持っています。それのおかげで氷の能力は使えます」
ちゃんと訓練したから大丈夫だと伝えれば、アリアさんは目を見開いて驚いた。
なんだか私の周り、驚く人が多いな。まぁ、仕方ないと思うけど。
「それと、創始者の魂の断片が私に宿っています。だから『雪』のことは理解しているつもりです」
「……そう。創始者がサポートしてくれるのなら安心だわ」
穏やかに微笑むアリアさん。だけど、その笑顔はどこかつらそうだった。
無理して笑わなくてもいいのに……。
「無理して笑わないでください。私はアリアさんの心を尊重しますから」
「!」
「無理すると心が壊れる。だから、私の前では無理しないでください」
アリアさんの母の言いつけを破ることになっても、私は相手の心を大切にしたかった。
私の言葉に、アリアさんは切ない顔で笑った。
「祈ちゃんは優しいのね」
「そうですか?」
「ええ。あなたが適合者でよかったわ」
今度は無理のない表情で笑う。それを見て、少し安心した。
ふと、私の膝の上にいる小さな狐を思い出す。
「そうだ。その子の名前を決めてくれるかしら? 今までつけられなかったのよ」
それは不便だ。どうして適合者以外名付けられないのか知らないけど、今はこの子の名前を考えよう。
名前かぁ……。私は物書きが趣味だから、いろんな名前を考えている。
日本名だったり英名だったり。英名の場合はネットで英名の由来を探して決めている。
……あ。そういえば雪に関する英名があったはずだ。
確か、名前は……。
「……『ネヴァ』。『雪に覆われた』って由来があるけど……」
「……! キュゥン!」
名前をつけた途端、ぐりぐりと腹部に擦り寄ってくる。
気に入ってくれたみたいでほっとした。
それから喫茶店から出て、アリアさん達は帰ろうとしていた。
「祈さん! 本当にありがとうございました!」
子供なのにしっかりとお礼を言ったユニと手を振って、私達は別れた。
買い物が終わって家に帰って、私室のベッドに倒れこむ。
ネヴァには人前にいるときは尻尾を一本にするように言ってあるから、部屋に入った途端、尻尾が九本に戻る。
「はぁ〜……。大丈夫かなぁ、私……」
幼い頃から『雪』の適合者になったからある程度の覚悟は持っているけど、ちょっと不安だ。
私に大役が務まるのか。ちゃんと指輪とおしゃぶりを守り通せるのか。
心配だったり不安だったり。でも、ネヴァも雪那もついている。アルド達もいる。
「頑張ろう」
「キュゥン!」
決意を胸に秘めて呟けば、ネヴァも意気込むように鳴いた。