日常編 * 友達と幼馴染 *
――ピピピピ、ピピピピ
一定間隔で鳴り響く電子音で目が覚める。
緩慢に腕を伸ばしてスイッチを切ると、ちょうどいい時間に起きたことを確認。
「懐かしい夢……だったなぁ……」
私がティモさんと出会い、雪のリングとおしゃぶりを継承された時の夢。
雪の適合者の影響で氷のフェノメナキネシスを得たけど、滅多なことでは使わない。超能力自体滅多に使わないから別にいいんだけどね。
ベッドから起き上がると真っ先にパジャマから制服に着替える。
新しい制服は白いカッターシャツと、左胸に校章を刺繍したライトブラウンのブレザーに紺色のスカート、赤いリボンタイがかわいさを引き立てる。
これが並盛中学校の学生服。結構気に入っているけど、夏服は半袖らしい。私は長袖で通すって決めているから関係ないけど。
腰下まである純白の髪を丁寧に梳かし、ハーフアップに結わえる。最後に指輪を通したネックレスを首にかけ、おしゃぶりを入れた巾着をスカートの中にしまった。
眼鏡を持って1階で顔を洗い小用を済ます。あとは朝食を作って洗濯物を干す。
食器洗いをして、やることを終わらせてからスクールバッグを取る。
あ、ちゃんと言いつけである眼鏡かけないと……。
これは幼馴染とお母さんの頼み。どうしてなのかわからないけど。
「よしっ、レッツゴー」
気合を入れて、通学路を歩く。
大通りに出ると、見慣れた後ろ姿があった。
色素の薄い髪が特徴的な、熱血男子とその妹の可憐な美少女。
「了平、京子」
交差点の手前で振り返った二人――了平は豪快に、京子は仄々とした笑顔で挨拶。
「おおっ! 久しぶりだな氷崎!」
「おはよう、祈ちゃん」
笹川兄妹こと、笹川了平と笹川京子。この世界の主要人物だ。
特に京子はヒロインの一人というかメインヒロイン。了平は重要人物の一人。
二人は小学校で知り合い、仲良くなったのだ。
「よし! 学校まで極限に競争だ!」
「お兄ちゃん!」
合図もなしに同時にスタートダッシュした了平に、京子は呆れる。
私も空笑いして、小さな溜息をついた。
「祈ちゃん、今度は一緒のクラスになるといいね」
「……うん。でも、京子なら一人でもすぐ友達ができるよ」
「どうして?」
不思議そうに小首を傾げる京子の頭をぽふっと撫でる。
「京子はかわいいから」
笑顔と一緒に心から思った一言を出すと、京子は顔を真っ赤にしてはにかんだ。
「あ、了平の鞄……」
道端に落ちている了平のスクールバッグを見つけて呟く。
京子はクスッと笑って、了平の鞄を拾う。
「先に行って届けてくるね!」
「うん。じゃあ、また」
手を振って見送る。これで少しは静かになった。元々一人を好んでいるから安心できる。
その時、私の鞄に誰かの鞄がぶつかった。
「す、すみませ――って祈!」
反射的に謝った少年は、私を見ると驚きの声を上げる。
ツンツンとした柔らかそうな栗色の髪に、大きな琥珀色の瞳。まさに小動物を体現した子。
幼馴染の沢田綱吉。この世界の主人公だ。
「あ、おはよう」
「おはよ。同じクラスになるかな」
「ならないと思うよ。だって、ずっと違うクラスだったでしょ?」
あー、と思い返す綱吉に思わず笑ってしまった。
そう。幼馴染なのに6年間も奇跡的に違うクラスだったのだ。
残念がる綱吉の頭を軽く撫でれば、綱吉は頬を赤く染めて不機嫌そうな顔をした。
「子供扱いしないでよ」
「あ、ごめん。癖で……。撫でられるのイヤ?」
幼い頃から泣いている綱吉の頭を撫でていたけど、嫌がるならやめようかな……。
眉を下げて訊ねれば、綱吉は「イヤじゃないけど……」と恥ずかしがりながら呟いた。
女子だけど身長は平均より高めの私より低い位置に綱吉の頭がある。
綱吉は平均的な男子の身長と比べて少し低めだから小動物っぽい。ていうか小動物だ。
「ちょっと急ごうか。入学式の前にクラス分けを見ないと」
「そうだった」
思い出した綱吉は、私の手を取って急ぎ足になる。
私が撫でる癖があるのと同じで、私と手を繋ぐのが癖である綱吉。こういうところが小動物だ。
小さく笑って、一緒に並盛中学校の校門を跨いだ。
クラスはやっぱり別れていた。
綱吉と京子はA組で、私は無難なC組。ちなみに了平と同じA組。
ちょっと疎外感。でも、静かに過ごせそうだなーっと思うのだった。