『チャンピオン ダンデ!夜のシュートシティにて女性と密会!? チャンピオンの恋人はまさかの幼なじみ!?』
彼がチャンピオンの座についてから数年。既に見慣れてしまった文句を謳う週刊雑誌をゴミ箱に突っ込む。ダンデと写る女性は服装や髪型からしてやっぱりソニアだった。ぼやけていたけど、多分。
ふう、と苛つく気持ちを落ち着かせる。
幼くもチャンピオンという座についたダンデに対する世間の目は良くも悪くも集まった。
今回のように、ただの幼なじみと話しているだけの、わずかな時間を切り取って、あることないことを書きたてることなどよくあること。
ただし見慣れたといっても、ななしが傷つかないとは限らない。
「私が、彼女なのに……」
思わず漏れた言葉に、はっと口を手で抑えた。
ダンデやソニアとななしの関係は所謂幼なじみ。ただななしは僅かに歳下であったため、どちらかというと妹のような扱いをされていた。
そして自分より先にジムチャレンジャーとして旅立つ2人を見送った。その時ななしなダンデに恋心を抱いていたものの、告げることは無かった。が、様々なことがあり、現在では恋人という関係に落ち着いていた。
しかし恋人になったから、といって幸せ薔薇色ハッピーライフを送れたかというと否である。
チャンピオンとなった彼には多くの仕事や、彼自身のガラル地方のトレーナーを強くしたいという夢を叶えるために奔走し、甘酸っぱいデートなぞする暇も無かった。
無論ダンデの職務にななしはケチをつけたい訳でない。
ただ、今回のような熱愛報道にはまいる。
ー自分が恋人だと思っていいのだろうか?
ーーもっと相応しい女性が彼にはいるのではないか?
ーーー彼が、あまりななしと話をしないのも、デートをしないのも、実はもうダンデ自身はななしを嫌っているからではないか?
きっと彼は優しいから言い出さないだけで……。
と考え出して止まらなくなる。熱愛報道が出る度に怯えて、公式から『あれは事実無根である』と発表が来るまで安心できない。彼女なのだから、自分で彼に聞けばいいと思うのに、ななしではない女性を愛していることが真だと肯定されるのが嫌で。
元々物事をネガティブに捉えがちで、自分がダンデの彼女であるということに自信を持てていないことが、負の思考の連鎖に拍車をかけた。
思考に沈むななしを引き上げたのは、彼女の相棒 ロズレイドであった。ロズレイドの覚えている技 アロマセラピーはバトル等であれば味方の状態異常を回復できるものだが、この場合はななしへのリラックス療法である。
「ありがとう、ロズレイド。落ち着いたよ、相変わらずいい香りだね」
にっこり笑ったロズレイドをみて落ち着きを覚えた。スボミーのときから一緒だった、相棒がこんなにも頼れてしまう……!
その時、ロトムスマホが着信を告げた。相手はソニア。
「もしもし……」
「あっ、ななし!?もしかして今日の週刊雑誌見た!?」
「ダンデの熱愛報道?シュートシティで密会のやつ?」
「見てたか……。あれ、全くデートとかじゃないからね!わかると思うけど!」
小さい頃、ソニアは一人っ子であったからかよくななしの姉のような振舞いをしていた。
実際、姉のような存在である。真っ赤な嘘とは言え、ダンデの彼女であるななしを心配して電話をかけてきてくれたのだろう。
「ふふ、分かってるよ。でも言ってくれてありがとう、ソニア。公式から発表あるまで待たなくて済んだよ」
画面上も口頭でもレスが早いソニアが沈黙のままであることに首を傾げる。
「どうかしたの?」
「ダンデくんから直接連絡来てないの!?」
「うん、あんまり。チャンピオンだから忙しいのよ」
ーーそれか、私のことが嫌いになったのよ。
ひっそり呟いてしまった一言。ああもう、こんなネガティブなこと、ソニアに言いたくなかったのに。
「そんなことない!!」
「うお、」
ソプラノの声が耳に響く。
「ああ〜、もうダンデくんったら!恋愛でも方向音痴なわけ……!?……ねえ、ななし。ダンデくんはね、あなたのこと絶対嫌いじゃないよ」
「そうかなあ……」
「そうなの!今すぐななしの家行く!!そこにいて!!」
「はあ……」
家以外行くところもさほど無いが。なにせ出不精。仕事以外で外出する気はあまり無い。
ぶち、通話が切られて、暗くなった画面を見つめる。
「なんだったんだろうね、ロトム、ロズレイド」
「ロト?」
ロズレイドは肩をすくめて台所へ向かっていった。ロズレイティーを淹れるつもりなのだろう。甘くて美味しいから、ロズレイティーは好きだ。
ピンポン 古びたチャイムの音が鳴る。
ドアノブを開けながら
「どうしたのソニア、いきなりく、るっ……て……?」
「……久しぶりだな、ななし」
「ダンデ……なんで……?」
ダンデは少し居づらそうに苦笑いした。
部屋に彼を迎え入れたはいいが、お互い会話をしないまま沈黙が続く。辛い、はやくロズレイドが来てくれればいいのに。なんでソニアが来ないの?
「ななし、見たんだな。雑誌」
彼の視線の先には、ゴミ箱に捨てられた週刊雑誌。デカデカとダンデの熱愛報道がのっている。
もうこの際聞いてしまおうか。
「ねえ、ダンデ」
「どうした?」
「……私たちって恋人なの?」
何か言いかけたダンデを無視して、ななしは続けた。自身の臆病さを知る彼女は、今言わなければきっとずるずるこの関係を続けてしまうと思ったからだ。もし、ダンデに他の愛する人がいるなら、自分から解放してやらねば。
「あのね、私、ダンデには別の好きな人がいるんじゃないかなって思うの。私とはあんまり連絡取らないし、デートだってしないでしょ?……ソニアとか他の女の人とは出かけてるのに」
何度もダンデの熱愛報道を見たことを思い出す。
「ダンデが、私の告白に、俺も好きだって言ったでしょう。きっと、勘違いだったのよそんなの。だから、別れー……」
言い切る前にダンデの鍛えあげられた腕により、ななしは抱き寄せられた。
「……!?」
「すまない、ななし。お前を苦しめさせてしまって……。だが、聞いて欲しい」
すいっと顎を捕まれ、ダンデと目が合う。アンバーの瞳に、頬を赤く染めた自分が見えて、一層恥ずかしくなる。
「オレは、お前を手放せないよ」
「……色々、私たち、話さなくちゃダメみたいだね」
「ああ……。どこから話そうか」
カチャカチャ、ティーカップが触れ合う音が聞こえてきた。ロズレイドがお茶を持ってきたのだろう。
「うん、いっぱい話そう。ロズレイティー、ダンデ飲めたっけ?」
お茶の良い香りが広がった部屋で、2人は隣合って座りゆっくり話をした。今まで話していなかった分を取り戻すように。
ダンデがあまり自分と連絡をとらず、デートをしなかったのは、もしななしの存在が世間に知られたら……と考えてしまったのだとか。
チャンピオンとして注目され、またファンも多く抱えているからこそ、不安になったのだ。
さらに、チャンピオンの激務をこなすうちにダンデも似たような考えを抱くようになった。
「オレは、バトルが好きだ。強いトレーナーと戦いたいといつも思っているし、ガラル地方のトレーナーをもっと強くしたいと取り組んできた。これが間違いだと思わないし、これからもきっとそうする」
だけど、と続ける。
「そんなオレに君を付き合わせていいものかと、思ってしまった」
オレより君の傍にずっといれる男がいる。
そう思いながら、でも彼女を手放したくないそんな思いも強くて、逃げていた。
ダンデはそうティーカップを大きな手に包んで話した。
「なあんだ、ダンデも同じだったんだ」
「同じ……とは?」
「私も同じことを思ってたってことだよ」
自分より彼に相応しい人はきっといる。
そう思いながらも、彼に自分以外の愛する人がいることを嫌がって、逃げていた。
「結局のところ、心配しなくてよかったんだな……」
「そういうことになるね……?」
「もっと連絡をとろう、デートだってしよう」
「パパラッチは怖いけどね……」
「対処するぜ!」
「恋人がチャンピオンだと、頼れるなあ」
いつの間にか、ななしはダンデの脚の間に座らせられ、後ろから抱きしめられていた。
筋肉質な彼の高い体温に、溶けてしまうんじゃないかと馬鹿なことを考える。
まだ見ぬ未来に不安がない訳では無いけれど。
今はまだ、この幸せを噛み締めていたいのだ。
「そう言えば、ソニアがね。ダンデは方向だけじゃなく、恋愛も音痴なのかって言っててね。面白かった」
「……ソニアめ……」
ダンデの恨めしげな声を聞いて、声を上げ笑う。
きっと彼を、ななしの家に来させた犯人である彼女に、後でお礼をしなくちゃ、なんて考えながら。
「回りくどい2人なんだから……。せっかくお互いあんなに大好きなのに、もったいない。ねえ、ワンパチもそう思わない?」
「イヌヌワン!」