臆病者とカレー作り

ガラル地方にて、最近絶大な人気を誇る食べ物がある。カレーライスだ。
元々キャンプをするトレーナーがよく食べていたものだけど、最近はトレーナー関係なく流行している。
かつて、ジムチャレンジャーをしていた時も、キャンプと言えばカレーだったな、とななしは懐かしく思った。

「なんか今のカレーっていっぱいレシピあるんだね……。私たちのときはカレーは滅多に失敗しないしいっぱい手早く食べれるから、カレー食べてたし、すごい、カレー図鑑まであるのね」

ヨクバリスが見せてきたキャンプ特集の1ページ。食いしん坊なヨクバリスのことだから、きっと食べ物関連だと思い、見たところやはりそうであった。ヨクバリスはビシ!とカレーを指している。

「いつもと違うカレー食べたいの?」

ぶんぶん すごい勢いで首を縦に振るヨクバリス。
ロズレイドによく窘められてしまうのだが、ななしはヨクバリスがホシガリスのころからよく甘やかしてしまう。そんな彼女が、目を輝かせておねだりをするヨクバリスに勝てるわけがなかった。





「なるほど……だからカレーなんだな!」

「そうだよ、せっかくだし昔みたいにキャンプしてカレー食べようかってなったの。……その、ごめんね。ダンデ、オフなのに付き合わせてしまって」

夜のワイルドエリアのうららか草原。
ここでダンデとななし、それぞれの手持ちとともにキャンプをしていた。
キャンプをするか、と決めて準備をしていたところにダンデが「予定されていた業務がキャンセルになってな……休めと言われてしまった」とアポ無し訪問があったのだ。
来るなら来ると連絡しろ!
少し怒る気持ちがあったものの、休めと言われた時真っ先にななしの元に来てくれたことに喜ぶ気持ちが勝ったため、厳しくない注意だけした。
そして今からキャンプをする予定なのだと話せば、オレも行く!と。
キャンプは楽しいものであるけれど、せっかくのオフが無駄にならないか、ななしは心配であった。

「気にしないでくれ、ななしと過ごすオフが無駄になるわけがない」

真っ直ぐな言葉に思わず照れる。
危ない、じゃがいもではなく自分の指を切るところだった。熱愛報道云々を経て、ダンデは自分の感情を表に出すことを学んだようで。
恋愛ドラマ顔負けのセリフをダンデが放つのだ、ななしにダメージは4倍だ。

「……そっか、なら良かった」

「それに」

「うん?」

「ななしとキャンプをしたかったんだ。オレたち、ジムチャレンジの時期も違かったし、オレがチャンピオンになってからあまり暇が無かったしな」

「確かに……!じゃ、よりをかけてカレー作るよ。失敗しないように祈ってて」

「黒焦げでも食べるぜ?」

「食べないで?」

絶対失敗出来ないカレー作りなんてあっただろうかとななしは昔を振り返った。


「おーい、ななし。ご飯が出来た……」

「ダンデ、しっ!今、私はカレーに集中しているの……!ここで失敗したくない……!」

「いつになく本気の顔だな……」




「出来た……!」

「お、いい匂いじゃないか!美味しそうだ!」

「ぎゃぁぁダンデ!?いつからそこに!?」

「さっき話しかけたぞ?でもななしはカレーにかなり集中していたからな」

よくよく考えれば、ダンデ、この男はチャンピオン。きっとさぞ美味い、それこそななしでは手が出せないようなレストランでの食事も多いはず。そんな彼に自作カレーを食べさせる……!?不味いって言われたらどうしよう……!
などと考えに至ってしまい、今まで無いほどに集中したカレー作りになってしまったようだ。


ぐいぐい、カレーの匂いに空腹を我慢できなかったヨクバリスに服を引っ張られて、ダンデやポケモンたちの力を借りてカレーを手早く盛る。

みんなで手を合わせて
「いただきます」

「これは……チーズカレーか?」

「うん、雑誌にチーズまみれカレーって書いてあった。クラボの実入れた辛口カレーにチーズのコクが最高!って書いてあってね。食べたくなっちゃった」

あぐ、ダンデの大きな一口。
そこからいきなりガツガツと食べだしたので、思わずななしは驚いた。

「え、そんなに美味しかった……!?」

「ああ、リザードン級の美味しさだ!」

ダンデもポケモンたちも、ニコニコ、だが物凄い勢いでカレーを消費していく。
呆気にとられたものの、カレー作りは大成功したよう。
カレーを強請ったヨクバリスもむぐむぐと頬張っている。やはり満足する出来だったようだ。

おかわり!と2皿目のカレーにスプーンをのばすダンデやポケモンに気付き、ななしは慌てて自身のスプーンを掴み、カレーを口に運ぶ。
辛口のカレーに、優しいチーズのコクが合う。

「美味しい……」

普段、あまり量を食べないななしもぱくぱく夢中で食べ進める。
そんな中、ダンデがニッカリ笑って彼女を見ていることに気付く。

「ん、どうかした?おかわりまだしても、大丈夫だよ?」

「いやおかわりじゃなくてだな」

ダンデが静かにななしの方へ腕を伸ばす。不思議そうに首を傾げる彼女に笑って、指で彼女の口元に付いたままのカレーを拭う。

「はは、さっきから付いたままだったぞ?」

「……そう言うか、ティッシュ渡してくれればいい話じゃん……!?」

「え、なんで怒るんだ!?」

幼い弟がいるダンデにとって、この行為はよくやることなのだがーーむしろそんな彼女も可愛いなとホッコリしていたーーそれなりに成長しているななしには恥ずかしい行為でしかない。

唇近くに指を伸ばされ思わずドキドキしてしまったこと、しかし結局はただカレーを拭われただけ。いい歳にもなってカレーを口元に付けていた自分に対する恥ずかしさ。

顔を真っ赤にするななし、カレーが辛すぎたのかと水を渡すダンデ。
騒がしい自分たちのトレーナーを見守るポケモンたち。

こうしてキャンプで過ごす夜が更けていった。

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