レイニー・メカ・パニック
※短編に載せていたものを微修正しました
エマージェンシー!エマージェンシー!そんなコールが脳内に鳴り響き、やべえよやべえよと騒がしく私に危機を伝える。
まず今日はそもそも失敗続きだった。時計が壊れていたせいで、遅刻するし。土砂降りだよって家族にもテレビの天気予報士のお姉さんからも言われたのに、忘れてきたし。算数では分からないところを当てられてしまって、隣の席の王道くんに助けてもらう羽目になったし。(サンキュ〜王道くん!)
まあ、一番やばい失敗は今なんですけど!!
橋の下から、周りを覗き見るが、バケツをひっくりかえしたかのごとくザーザーザーザー降るというより空から叩きつけられているように雨が降っている状況は五分前の天候より酷くなっている。絶対に。
まだ学校から飛び出した時は小雨だったように思う。だからこそ、ノー傘でも行けるっしょ!って私は学校を飛び出したのだから。相合傘するような友達は転校してきたばかりの私にはいなくて。計算ミスがあったのは帰り道の水溜まりを避けようとして、思わずコケてしまったところ、私の右の義手がぶっ飛んでいってしまったこと。ぽーん!ホームラン!と叫びたくなるほど綺麗な弧をかいて義手が橋の下までいってしまい、慌てて取りに行けば、ただ私が再び義手を装着し直せばいいだけの事態ではないのを知ってしまった。
「最近、兄もパパも忙しくてメンテしてなかったから……繋ぎの所だけじゃなくて中も壊れてるう〜!!??」
一人頭を抱える私に、同じく橋の下で雨宿りをする猫がじーっと視線を寄越す。叫ばなくちゃやってらんないよ!義手を抱えて帰るのもいいけれど、この雨の中、義手がもっと壊れるはめになったらとても困る。パパが、これはなかなか手に入りにくい素材で作ったから、ちょっとした修理はまだしも、作り直すことになったら私はあまり慣れない義手をつけて行かなくちゃならない。パパのハイパーメカニック義手(命名:兄)がハイテクすぎるのが悪い、特別な樹脂やら何やらーー説明はしてくれたけど私にはわかんなかったーーによって作られた義手は繋ぎの球体関節みたいな部分を見られない限りは義手だって分からない作りだし、薄皮切ったぐらいなら偽物の血を流して、それっぽく見える機能付き。パワー数値とかだって弄れば、車も片手で持てるんだから!……義手の深く空いた穴からは、何本かのちぎれたコードが見えて、私はまた肩を落とすはめになる。
「分かってる、分かってるの。義手をなんとかランドセルに詰め込んで走って帰れば……でも」
帰り道は、きっと私と違ってちゃんと皆傘を持って歩いているに決まっている。わざわざ傘の花が咲く道路に飛び込んで歩けば、皆が知る。私の右腕が無いことを。そして、そして。
「あれ、君どうしたの?」
「へ?」
赤い色の傘をさした、私の隣の席に座る王道くんがそこにたっていた。
「王道くんがどうしてここに、い、る……」
エマージェンシー!!エマージェンシー!!真っ赤なランプがチカチカチカチカ煩いぐらいに点滅している。だって彼の目の前に立つ私は、彼から見れば右腕を抱えるクラスメイト………!!どうしよう、ああこんな時兄みたいな頭脳があったらうまく言いくるめたりなんだり出来たのかな!!??……どうしよう。変な目で見られたら。
「それは義手?」
「え、あ、うん、そうだよ。ただの義手っていうより、色々手を加えられてるからもはやメカみたいな感じあるけど」
壊れちゃって……と言えば、王道くんはひょいと義手の穴からコードを確かめる。
「ボク、これなら直せるけど直そうか?」
「えっ!?」
確かに噂というか、実際に王道くんがボクのロードと名付け、彼が開発したというものを披露していたのを見たことがある。私自身がそういったものに詳しいわけではないが、父や兄が開発者であるだけに、王道くんが作るものは並の小学生では為せないものだと思ったことを覚えている。そんな王道くんなら、直せるのだろうか。
「直して、くれるの?」
「まかせてよ!」
数分立ち(私には何時間にも思えたけど)、はいどうぞと渡された義手は、穴は残りながらもコードは繋がっているように思えた。
「ごめん……。その肌みたいなシートは特殊な素材みたいで、中身は直せたけど穴自体は覆うことはできなかった……。代わりにボクのハンカチで巻いて隠せばいいよ」
「あ、ありがとう……。じゃあ、着けてみる……の前に、ちょっと恥ずかしいからあっち向いてて!ごめん王道くん!」
「そっか、ごめん!」
長袖の袖を捲り上げる。
つけ直した義手は何の問題もなく動いているように思えた。
「凄い凄い、王道くんすごーい!!私の右腕動く!!やった〜!!ありがとう!!」
がしっと王道くんの腕を掴んでぶんぶんシェイクする。途中で振り回されて困惑する王道くんに気付いて直ぐにやめたけど。
「よかった、じゃあ帰らない?もう雨も止んだみたいだし。ほら、あっちに虹が出てるよ!」
王道くんが指した方に目をやれば、鮮やかな虹のアーチがそこにある。土砂降りだった空が嘘みたいに真っ青な空だ。
手を差し伸べられ、流れるままに王道くんの手を掴んで二人並んで歩き出す。
「ねえ王道くん」
「どうしたの?」
「私の義手とかみて、驚かないの?気味悪くなったりしない?」
エメラルド色の瞳がキョトンとする。
「全然そんな事ないよ。人それぞれ事情はあるし、ああ、でもボクが隣の席から見てて気になってたんだ。右腕庇いがちっていうか、最低限使わないような感じがしてて」
「そ、そんなに私の事みてたの!!??」
「別にストーカーとかじゃないよ!?気になってただけだから!」
私と同い年?と聞きたくなるような大人びた表情を引っ込めて、王道くんがあわあわしだす。さっきとのギャップに思わず笑ってしまう。
「でも、本当に助かったよ、ありがとう!この借りは絶対返すから!どれくらいの借りか分かんないけど返して返して返しまくるからねっ!」
「そこまでやるほどのもんじゃないと思うけど……」
ちょっと困った様子でいる王道くんを横から見ながら考える。今まで隣の席だったけど必要以上に話したりとかはなかった。けど、ここから(きっかけが私の情けないところを見せたことなのが残念だけど)何かが変わるかもしれない。少なくとも、転校したばかりの不安な生活が、王道くんのおかげで変わるような。不安とは逆の生活が待っているような。そんな予感がした。
「ねっ、遊我くんって呼んでもいい?」
「じゃあボクもいちごって呼ぶよ」