001と1はここから始まる
なんとか宿にたどりついた。知ってたけどダンデくんの方向音痴本当に酷いのね……。面白いぐらい違う方向に行くから最終的に私が彼のコートの袖掴んでた。後ろから見たらカップルに見えたかもしれない。前から見たら必死の顔で推しを引っ張る私の顔で、カップルじゃないって分かると思うけど。
リザードンが道案内するんじゃないの?って思ったんだけど、いつの間にかピカチュウととても仲良くなっていて、ずっとお喋りをしている。
ピカチュウはようやっと慣れたのか、話しながら、興奮してはいるけれど、固体を保てている。邪魔するのもあれで、ダンデくんのロトムスマホの力を借りて宿へ向かうことになったのだ。正直キルクスタウンには慣れていないので助かった。
宿では女将さん達が出迎えてくれた。なかなか来なくて心配さえしてくれていたようで、優しさに涙が出そうだった。
元々よく来る場所とインタビューで言っていたこともあってか、女将さんとダンデくんは親しげに会話をしていた。その時に何故か私の手元を見つめられ、何か変なものあったかなと思い、自身の手元をみる。がっちり推しのコートの袖を握りしめていた。恥ずかしくなってすぐ手を離したよね。女将さんしないと思いますけど、恋人とか勘違いやめてくださいね!!違いますから!!
やっと温泉に入ることが出来た。
冷えていた体がぐっと暖まるのを感じる。どうでもいいけど、温泉とか湯に浸かるときってオッサンみたいな声でない?前、ナナさんと温泉旅行したらめちゃくちゃ笑われてしまった。しょうがない、気持ちいいから出ちゃうんだよ声が。
あと歌も歌いたくなるよね〜!!
「ふふん、ふん♪」
「ピカチュウ♪」
あまりにも気持ちよすぎてな……歌ちまったよ……。私たち以外人がいないのもあいまってな……。ピカチュウも合いの手入れてくれる。
ピチューのころから一緒に風呂入りながら歌ってたもんだからよ……。所々うろ覚えだから鼻歌混じりだけど。
ピカチュウ と たのしい じかん を すごした !
「あ〜!いい湯だったね、ピカチュウ!気持ちよかったー!」
「ピカピ〜!」
ドライヤーしてモフモフになったピカチュウを抱え風呂場を出て、給水機が置いてあるスペースへと向かう。温泉浸かったあとに冷たいミネラルウォーター飲むのすごく好きなんだよね……。
スペースに向かえば、先程まで話していた人がそこにいた。
「あ、ダンデさん?」
「お、君も水を飲みに来たのか?」
「はい……」
髪を1つに纏めている……だと!?いつも下ろしているダンデくんしか見てこなかったからガン見しかけた。項が見えてとてもエッチ……。滴が伝うのが間近で見えるんだが!?心の中で太鼓をドンドコ叩くゴリランダーを落ち着かせる。
リザードンもいた。同じタオル首に掛けてるの仲良しか〜っ!最高!ありがとう!!イエーイ!!
ピカチュウも興奮してはねている。気絶しないだけ頑張っているほうね、彼は。
どうぞ、とグラスを差し出してくれたので有難く受け取る。平常心、平常心だぞ私……。口がニヤけたときようにさりげなく手で隠しておく。既に恥は晒しているが、これ以上みっともない姿見せられるか!
ボタンを押して、グラスに水を入れる。
水が入ったグラスを、行儀が悪いかもしれないが頬に当てる。ひんやりとした感覚が、火照った頬に気持ちいい。
「そういえば、さっき温泉で歌を歌っていなかったか?」
「歌ってましたけど、えっもしかして聞こえてました!?煩かったですよね本当すいません!!」
何回私はダンデくんに迷惑を掛けてしまってるんだ……?きえたい……。
「恐らく、オレとリザードン以外人がいなくて静かだったから聞こえたんだろう。ピカチュウとはしゃいでいてとても可愛かったぜ!」
かわ……かわ……なんて……??
いやきっとピカチュウが可愛いって言ったのよきっとそう……!思わず温泉に入ったから、とは違う意味で赤くなった頬をかくすため下を向く。
私とダンデくんの間にどことなく気まずい空気が広がった。
「ーーさっきの、話なんだが」
そんな空気を壊したのはダンデくんからだった。
「さっき……。ああ、くしゃみであやふやになってしまったやつですね。先程は申し訳なかったです」
「いいや、体が冷えてしまったはずなのに、外で話そうとしたこちらにも非がある」
「全然、無茶した私が悪いので……!あ、続き!話の続き!どうぞ話しちゃってください!」
「いいのか?」
「勿論!」
「君は、もしかして、ウクレレちゃんでは無いだろうか……?」
「ウクレレ、ちゃんですか……」
確かにウクレレちゃんとナナさんには呼ばれている。SNSでも、垢名は違うが、フォロワーからウクレレちゃん呼びされることもある。
うーん、でもダンデくんが知ってるってことはそれなりに有名な人なのではないだろうか。
「確かに数人にはウクレレちゃんと呼ばれることはありますが……。ダンデさんの言うウクレレちゃんかどうかは分かりませんよ?」
私別に有名人じゃないし。
「ダンデさん、ウクレレちゃんって人を探してるんですか?」
そういえば、ちょくちょくインタビューとかでも取り上げられていたっけ。お礼を言いたい人がいる……みたいな。本人に迷惑がかかったら嫌だとあまり特徴をメディア前で言うことは無かったけど。さすが推し……。
「そうだ。ずっとお礼が言いたかったんだ。ずっとずっとオレのことを応援してくれた人。顔も名前も、分からなかったけど。会って、お礼を言ったり、どうしてオレをずっと応援してくれたのか聞きたくて。ネットでその子がウクレレちゃんと呼ばれていることを知ったんだ」
尚更私じゃない説強くない……?エゴサして本人に知られるぐらい有名なのウクレレちゃんって……。私マジでダンデくんのことしか見てないからさ、他の情報に疎いんだよね。
「そうだったんですか……」
「嗚呼、慣れないチャンピオンとしての職務で疲れた時に時々彼女の呟きを見直して活力にしていたもんだ。よく、オレを応援し続けられるなあと思ったこともある」
え、恥じすぎん!!??推しに呟き見られてんの……!!??私だったら死ぬね確実に。
まだ見ぬウクレレちゃんに合掌しとこ。
「あー、これだけ言ってもいいですか?」
「ん?どうした?」
「ダンデさん、どうして長い間ずっと応援してくれてるんだろうって言ったじゃないですか」
私は、多分彼が探す人では無いけれど。
10年もファンをしてる理由なんかこれ一つに尽きる。
「ダンデさんのことが大好きだから、ずっとファンだし応援するんです。そう決まってますよ。……あ、私の場合ですけどね!?」
ダンデくんの元々大きい瞳がさらに開かれる。閉じた方がいいよ、目が落ちるぞ?
少し黙っていたダンデくんは嬉しそうに笑いだした。
「やっと会えたよ」
「え?」
「やっぱり君が、オレが探していたウクレレちゃんだ」
私、さっき違うって言いませんでしたっけ!?
ダンデくんがロトム!と呼びかけると、懐からスマホロトムが取り出された。
見てくれと差し出された画面にうつる動画。
待ってこれって、
「私がダンデくんのファンになってすぐの時のアカウントにあげてた動画……!?」
ピカチュウがリザードはっぴを着て、リザードを応援している動画が映っていた。
しかもこれあげてた当時のアカウント、最初鍵無しだった黒歴史アカウントじゃねーか!!
こんなものをいきなり見せられたピカチュウも悲鳴をあげた。なんなら電気もこぼれてる。痺れるやめて!
待て、このアカウントがダンデくんの言うウクレレちゃん……?
「この動画はリザードンになった今でもお気に入りらしくてな、よく見ているんだ」
「ばきゅあ〜!」
あ、ピカチュウが気絶した。待ってピカチュウ、私を置いていかないで!?
「その様子を見ると、やっぱり君がウクレレちゃんで正解らしい」
ダンデくんが私にどんどん近付いてくる。色々パニックになった私は、ピカチュウとグラスを落とさないように抱きしめて、ぷるぷる震えて立つことしか出来なくて。
まっすぐ私を見つめるダンデくんの視線から逃げたくて、思わず下を向くけれど、ダンデくんによって顎クイをされてしまい逃げることも出来ず。
彼の琥珀の瞳に映る自分の真っ赤なマヌケ顔とご対面。
「まずは今まで応援してくれていたことへの感謝を。そしてこれからはオレとーー」
この先の言葉も返答も知るのは彼女とダンデだけ。
ただ一つ言えるのは、決してそれが悪い結果をもたらすことにはならなかったということである。
end!