1を知る

「チャンピオン タイム イズ オーバー。
最高の試合に ありがとうだ!」


響く歓声。打ち上がる花火。

今日のチャンピオンマッチにおいて、ダンデの公式戦無敗記録は破られ、新しいチャンピオンが誕生した。



ーーーー10年前、私は街をぶらぶら相棒のウクレレをかついだピカチュウと共に近所を歩いていた。
友達はみな10歳の誕生日を迎えるとともに街を飛び出し、旅に出てしまった。

私?私は驚くぐらいにポケモンバトルの才能が無かったので推薦状が貰えなかった。
悔しい思いはあれど、ポケモンバトルを好んでしたいとも思わず、またこのガラル地方にあるワイルドエリアではそれなりにバトル出来ないと死ぬ可能性だってあるので、納得した。

同じくガンガンいこうぜ!バトルだバトル!って性格でもないピカチュウとのんびり日々を過ごすのが性に合っているのだ……とも言い切れない。
だってまだ10歳!はしゃぎ倒したいじゃない!

生憎住んでいたのが田舎のせいもあり、娯楽は少なかった。ゲームだって飽きてしまったから、街を練り歩いて何か面白そうなものは無いか、と探していたのだ。

「なーんにもないね、ピカチュウ。さすが田舎」

ピ〜?と首を傾げたピカチュウの頭を撫でる。
たまたま怪我していたピチューを保護したのがきっかけでこの子は私の家族になった。
ウクレレを持つきっかけになったのは、ポケモンレンジャーをしてる従兄弟の相棒ピチューだったっけ。

なんて考えているとピカチュウがいきなり走り出した。

「えっ、ピカチュウ待ってどこ行くの!?」

ピッカァ、鳴き声がどんどん遠くなっていくので慌てて追いかけた。
ピカチュウは街角のある喫茶店へと飛び込んで行ったので、慌てて入れば顔馴染みの店長がピカチュウにポケモン用のお菓子をあげていた。

「ピカチュウ、匂いがしたからここに来たの?食いしん坊なんだから……。店長さんもすいません」

「いいよいいよ、気にしなくて。今日はお客さんが来なくてね、もう自分とポケモンたち用にお菓子作ってのんびりしちゃお!って思ってたんだ」

君もどう?と言われたので、お言葉に甘えて、と返した。美味しそうにお菓子を頬張るピカチュウを見ていたらなんだかお腹が空いてきた。

「モモンのみのジュースあるよ、飲む?」

「飲みます!」

「ちょっと待っててね」

カウンター席に座り、ピカチュウが早くも3個目のお菓子を口に運ぶのを見る。お菓子食べ過ぎって前ジョーイさんに怒られちゃったから、止めさせなきゃ……。最近ピカチュウ抱っこするの、重くて辛くなってきたんだよね。

『ーーーー…………』

「ん?」

ザザ、と音をたてたテレビに目をやる。古びたテレビだが、店長曰く味がある、らしい。

「お菓子食べながら、ジムチャレンジの中継を見ようと思ってたんだけど……いい?」

「全然大丈夫ですよ」

きっと推薦状を貰えなかった私を気遣ってくれたのだろう。ノープロブレム!むしろ暇潰しにはいいかもしれない。

ジムチャレンジは始まったばかりの時だった。
開幕式の中継は見逃したから、自分の知り合い以外に誰が挑戦者なのかは全く知らなかった。

「今日はね、ダンデくんがターフスタジアムにチャレンジするって聞いて見たかったんだよね」

「ダンデくん?」

「ああ、お隣のハロンタウンの子。あの子のお母さんが僕と知り合いでさ、ダンデくんよくここに来てたんだ……ほら試合が始まる。あの紫の髪の子さ」

「ふーん……」




試合を見終わったとき、私は完全にダンデくんに堕ちていた。一目惚れ、とはこのことを指すのかもしれない。
最初は全く興味が無かったのだ。店長の知り合いなのか、強いのかなってそれぐらいにしか思わなかった。
だんだんと彼から目が離せなくなった。爛々と輝く琥珀色の瞳。ポケモンへ指示を出すことに夢中で、拭われないままその褐色の肌をつたう汗。
何より勝利を収めたときの笑顔!ボロボロになったヒトカゲに飛びついて1人と1匹は太陽みたいな眩しい笑顔を見せた。隣にキマワリを置いたらきっとはしゃぎ出すぞ……。
無我夢中に、写りの悪いテレビの中の彼を見つめた。知らず知らずのうちに手を強くにぎりしめていたし、手に持って食べるのを忘れていたお菓子はピカチュウに奪われた。

嗚呼、なんて。言い表すことの出来ない衝撃。分かったのは「私、ダンデくんに堕ちたわ」これのみである。