番外編 ファンだからしょうがない
風呂上がりで濡れた髪を適当に拭って、リビングへ向かうとそこには彼女のピカチュウ以外の手持ちと自分のリザードン以外の手持ちたちが寛いでいた。
オレに気付いたクスネが足元に寄ってくる。彼女に渡したのはオレであるためか、懐いてくれているようだ。足に触れるモフモフとした感触が気持ちいい。
頭を撫でながら聞く。
「クスネの主人やピカチュウ、オレのリザードンは寝室か?」
そうだというようにクスネが頷きながら鳴いた。
既にオレが風呂に入る前から、うとうとしながらもオレのバトルの録画を見ていた彼女を思い出す。いい加減寝ろとポケモンたちが連れていったのかもしれない。
「オレも寝るから、みんなも夜更かしするんじゃないぞ」
わちゃわちゃと寝る準備をしだしたポケモンたちを背に寝室へと脚を運ぶ。元より仲が悪かった訳では無いが、今のように親しそうにする自分と彼女の手持ちたちを見る方がいいと思う。
そういえば、以前ドラパルトと共にいるドラメシヤが雷に怯えているのを彼女がドラパルトとともにあやしていたなあ。ドラメシヤの母さんのようだと言えば、じゃあダンデくんはパパさんだね!と返ってきて思わず動きを止めた。自分の発言に頬を赤くしながら弁明する彼女をみて思わず可愛い……と顔を覆ってしまったのは許して欲しい。リザードンたちにも呆れた顔をされてしまった。しかしオレは知っている。バトルで活躍した手持ちたちは、彼女を見かけるとまるで褒めろと言わんばかりに飛びかかっていくのを……!
仲が良いことは悪いことでは無いが、彼女はオレのファンだぞ!?
寝室に近付くにつれ、はしゃぐ彼女の声がする。
何をそんなにはしゃいでいるのだろうかと、そっとドアから覗くことにする。彼女は少し恥ずかしがり屋できっと何をしているのか秘密にしてしまうからな!
「こう!ここがね、好きなの!!」
彼女はまるでシーツをマントのように羽織っていた。くるくる彼女が動く度に、白いシーツも彼女を追いかけるようにくるくるひらひら踊った。
彼女は熱心にピカチュウとリザードンに語っていた。
「マント使ってさ〜大きく動くのすごく好き……。顔隠したりとか……目元だけ映してくれたカメラさんマジ最高お金上げたい……ありがとうって気持ち……。指示出す時のバッ!って感じも好き……。溢れ出るかっこよさ……たくましさ……。いや私語彙力無さすぎでは……?ああ〜!!ダンデくん好き!!!」
「その台詞は直接聞きたいんだが!」
「ダダ、ダンデくん!?!?見てたの!!??」
どうやらチャンピオン時代のオレのパフォーマンスを真似していたようだった。眺めていたい光景ではあったが、好きという言葉に思わず飛び出す。
彼女はなかなか好きだとか、言うことは少ない。勿論、言葉にしないからといって彼女がオレのことを嫌っているとは全く思わない。相変わらず彼女のSNSの呟きはオレのことばかりだし、気がつけばオレのコラボグッズを手に入れているし。頬を指で撫でれば、頬桜色にし照れながら嬉しそうに笑う。抱き締めると、ゆっくりであるが抱きしめ返してくる。
言葉に出さなくとも、好意は伝わるものである。
しかし、彼女の好きという言葉を直接聞きたいのもまた事実なのだ。
「あぎゃーーーーーーーーー!!」
白いシーツにくるりと身を包んで、床の上で丸くなってしまった。顔が見たくて、そのままひょいと抱き上げる。うわっ私、重いから!?と耳元で言われるが、彼女1人抱えられないほどやわな身体でもない。
気を使ったのか、ピカチュウとリザードンが部屋を出て行く。ピカチュウには彼女に無理させるなよ、と顔で語られた。恐らく、以前せっかくの休日なのに、彼女をベッドに籠らせてしまったことを未だに怒っているのだろう。歯止めがきかないのは、問題だなとオレも思ってはいるんだが……。
ベッドに彼女を転がせ、自分も覆うようにして被さった。彼女を隠していたシーツは剥ぎ取って床に投げて。
「キミは、本当にオレのことが好きだなあ」
幾度も言って、思ってきたことを改めて言葉にする。
ずっと不思議だった。
観客とは残酷なもので。先程まではオレを褒めていたのに、少しチャンピオンらしからぬ言動と思うと、手のひらを返すように糾弾をするものだっていた。チャンピオンとして、貢献を重ねるにつれ少なくなってはいたけれど。最初はちょっと疲れてしまっていたんだ、今までのようにただ勝利を狙って愚直に突き進んでいくというスタイル通りにはいかなくて。
人の目が、以前より気になって。
でもキミは変わらずにオレを応援してくれていたから。嗚呼、キミはずっとオレ自身を見てくれているんだなと思えたから。
胸がくすぐったくなって、何だか熱くなったんだ。
バトルとはまた違う興奮だった。
きっとこれが、誰になんと言われようとも、オレの恋なのだとそう思ったんだ。
「前も、言った事だけど」
冷たい彼女の指先が、オレの頬を撫でる。
恥ずかしそうに伏せていた瞳をあげ、まっすぐこちらと視線を合わせて。
「ダンデくんのことが、大好きなんだよ。そうじゃなきゃ、ずっと応援なんて、してらんないでしょ」
えいっと、彼女がオレの首の後ろに腕を回し、オレを引き寄せる。口にふにっとした柔らかい感触、鼻腔をくすぐるシトラスの香り。これは、彼女の誕生日にオレがプレゼントした香水の香りだ。
「私、ダンデくんに一目惚れだったんだよね。しかも初恋でさ。10年も重ねてきたんだよ、好きって気持ちを。……あれ、もしかして重い?」
「……いいや、全く。むしろ」
泣きたくなるほど嬉しいさ
彼女がくれたキスなんて目でもないくらいに、彼女の唇に食らいつく。まるで獣のようだと頭の片隅で思う。唾液でてらつく赤い唇に己が滾ったことを知る。
うーん、また彼女をベッドから出してやれないかもしれないな……なんて、ピカチュウに思わず謝罪をしてしまった。