剣も盾もかまえはしないけど

私、再誕?


意識を取り戻す。
視界には白い天井がいっぱいに映る。私は今どこにいるのかしら、私はスタジアムにいたはずなのに。
私は清潔なベッドに寝かされていた。身を起こし、部屋を見渡す。天井同じく白い部屋。1台のテレビと机、椅子2つ。シンプルで、少し物寂しささえ思わせる部屋だった。

「病院……?」

「ななしちゃん、目を覚ましたの!?大丈夫!?」

ガラガラとドアが開き、入ってきた祖母に飛びつかれ驚きながらも平気だよ、と返す。
そうか、私、スタジアムで倒れてしまったんだっけ。
祖母に続き、白衣を纏った医師と看護婦が部屋に入ってくる。

「無事に目を覚まされたようですね。身体に痛かったりする場所はありますか?」

「平気です……。あ、でも頭の裏が少し痛いかも……?」

「恐らく倒れてしまった時に腫れてしまったのでしょう。うん、冷やしておこうか。君はスタジアムで倒れたんだけど、それは覚えている?」

「はい、覚えてます。ちょっと頭痛があったんです」

「まだ頭痛はする?」

「ううん、腫れたところ以外は痛くないです」

「なるほど、異常は見られないようですね。ですが大事をとって調べておきますか。今日1日入院してもらっても大丈夫でしょうか」

ふむふむと何かメモをとった医師が祖母に聞く。
祖母は問題ないと頷く。そして医師と看護婦が出ていくのを見守った。

「具合はどう?本当に大丈夫なの?」

「うん、大丈夫だよ。ごめんね、おばあちゃん」

何度も繰り返し容態を尋ねる祖母に大丈夫と返しながら申し訳なく思う。祖母に心配をかけたくなくて、黙っていたのは間違いだったかもしれない。
お母さんたちにも連絡してくるわと、病室から出ていく祖母を見送る。

ふう、一つ息をつく。ダンデ選手の試合を見たときのような、頭の芯から響く痛みは無かった。
先程診断された後頭部のたんこぶの痛みはあるけれど、あの頭を締め付けるものよりはマシだ。

「大丈夫、じゃないなこれ」

体調自体は幾度も言ったように問題は無い。無いのだ。しかし問題が別に生まれてしまった。
ベッドから下りて窓のカーテンから、病院の中庭を見下ろす。夕方に入りかけた時刻で、草木やベンチはほんのり赤色に染まって見えた。
そして目の前をココガラが横切って飛び、中庭の中央にある大木にはキャタピーたちが巣を作っている。
今までは当たり前の光景だった。日常にポケモンたちが必ずいるというのは。けれど。

「ポケモンが、存在してる……」

思わず漏らした声は震えていた。慌ててテレビに駆け寄り、適当にチャンネルをつける。
遠い地方でのポケモンコンテストの中継が、ポケスロンの選手たちへのインタビューが、四角いテレビの画面に映し出されていく。

「私ポケモンの世界にいるの?」

ただ気絶し、眠っていたわけではなかった。闇の中で思い出したのだ。それは前世の記憶である。
こことは全く違う、ポケモンなんてものは実在せず、画面上紙面上の存在だった世界のこと。私の名前がななしでも無いし、顔も何もかもが違っていたこと。
ベッドの上に戻り頭を抱えながら、状況を整理する。
今の私の名前はななしで、8歳。ガラル地方の小さな街に住む少女……。でも中身は日本の真ん中出身で、遥かに歳が上の、ポケモンが好きな女。

「ええ……転生したってこと?」

死んだ記憶は何故か無いし、諸々の記憶抜けもある。前世の自分の家族とか、親しい友人のことだったりとか。逆に前世があることを思い出しただけで混乱してしているから、さらに詳しいことを忘れたままのほうが良かったのかもしれないけれど。

「あ、ココガラだ」

空気を入れ替えようと開けたままにした窓からココガラが飛び込んでくる。
なんとなくおいで、と声をかけると首をかしげながらも私の元に飛び込んできた。人に慣れているココガラだなあと思う。中庭にいるココガラであるなら、病院にいる人々に餌をよく貰っているからなのだろうか。

「撫でてもいい?」

「ガァ」

いいよと言うように胸に頭を寄せてくれたので、遠慮なく撫でさせてもらう。
ふかふかの羽毛からじんわり伝わる暖かさ。こちらを見上げてくる赤い瞳。目が合うとにこりと笑顔が返される。

生きている。このココガラも、他のポケモンたちも。そして私も。同じ世界に生きているのだ。その事実だけで胸がぎゅむと感動でいっぱいになった。大好きだったポケモン。どうして私の傍にポケモンがいないのかって考えたことなんてざらにあって。
夢だと思っていたことが今現実として傍にある。嬉しくて涙が零れてしまった。心配そうにこちらを伺うココガラに何でもないよと返してそのまま暖かくてモフモフを堪能してしまった。泣きながら同時に笑って頭を撫でてくる八歳の少女なんて怖いような気持ちがするが、私の自由にさせてくれたココガラには頭があがらない。

なおココガラにお礼の木の実をプレゼントした後、病室に戻ってきた祖母に泣きはらして赤くなり腫れた目をひどく心配されてしまった。














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