かっとビングだ、オレ!
そんな声が、体育館いっぱいに広がる。皆が声の主、九十九くんを注目して、彼は元気いっぱいに高い高い、私には到底飛べそうもない跳び箱に挑んでいくのだ。例え失敗しようとも、何度だって。観月さんや武田くん、委員長、彼の友人たちが賑やかな声援を送っていた。
確かに、私はその光景を、1歩引いたところから見守っていた。
ここで言っておきたいのは、私が決して九十九くんに恋愛感情を抱いていないというところである。
「そうなのか?」
「そうよ」
私の目の前で、全身水色の、全裸みたいに見える少年(多分)が浮いていた。放課後の人が少なくなり、夕日によって茜色に染まる教室に、何だか雲ひとつない水色の空を切り取ったみたいな色の彼の姿はミスマッチしているようで案外合ってるようにも思えた。
「それにしては、君は遊馬をずっと見ていたように思えたが……」
「もう1回言うけど、私は一切、九十九くんに興味が無いわ」
「おい!ちょっと待てよ、なんで知らない間にオレがフラれたみたいな感じになってるんだよ!」
水色のオバケみたいな彼の横にぶすくれた様子で立っていた九十九くんが声を荒らげた。デュエルをしようとしたところ、さほど仲良くもないクラスメイトの私に呼び止められたせいでデュエルが出来ず、かなり散々な物言いをしてしまったことは申し訳なく思う。
「っていうかなんでお前はアストラルが見えるんだ!?」
びし!と向けられた彼の指先を押しのける。おじいちゃんに人を指で指してはいけませんってよく言われていたもの。
「貴方、アストラルっていうの?」
「そう。私はアストラルだ」
「私はななしよ、宜しくね」
「待て待て、何事もなかったように自己紹介するな!」
「あら、ごめんなさいね。九十九くん。私が貴方に話しかけた理由って、彼──アストラルくんなのよ」
どうして私が彼を見れるかは分からないのだけども。気が付けば、九十九くんの周りを浮遊するアストラルくんが見えたのだ。九十九くん以外の人は彼が見えていない様子であるのは察していたのだが。
「九十九くんはアストラルくんが何なのか、知っているの?」
「いや〜、全く分かんねえんだ。コイツ自身も記憶喪失らしくてよ」
「…………じゃあ、アストラルくんがオバケだったり、宇宙人だったりする可能性もあるのかしら!!??」
「へ?」
「私はオバケなどでは……」
「私、あの、UMA……未確認生物とかそういうのが大好きで。アストラルくんを見たときにビビッと来てしまったのよ!!テレビや雑誌で、会いたくてしょうがなかった存在がいるって、そう思ってしまったのよ!!だから、私もナンバーズクラブに入れてもらえないかしら、九十九くん!」
ガシッと九十九くんの手を掴む。おじいちゃんが言っていたわ、獲物を逃がすなって!
「ナンバーズクラブにって、何でだ?」
「そうすれば、合法的にアストラルくんを見れるかなって。ね、お願いよ九十九くん!」
「ナンバーズクラブは遊びじゃないんだぜ〜!?」
「そもそもナンバーズクラブに入ったからといって、いつも私といれる訳ではないと思うのだが……」