※ゲーム軸です 夢主=ケータの姉
理科の先生=キュウビ キュウビ夢未満
「お姉ちゃん、えっと、その、おめでとう!」
部屋から出て廊下に出た私の目の前に弟である景太の笑顔と小さめの花束。景太の手首に輝く白の妖怪ウォッチ。そしてそんな景太を見守るように隅からこちらを覗く白くてぷかぷかしたお化けみたいなものと赤くてしっぽが2つに割れた猫。
「景太くんは照れ屋ですねぇ、お姉様の大学合格祝いに色々メッセージを考えて練習していたのに、おめでとうの一言が精一杯とは……」
「しょうがないニャン、ケータはお姉ちゃんと離れるのが嫌だから、おめでとうだけでも泣かずに言えてよかった方ニャン」
うるさい、とでも言いたげに隅を睨む景太に2人(2匹?)は口を噤んでいた。
それを見ていた私は思わず笑いそうになったが、景太も彼らも、私が『妖怪を見れる』ことをおそらく知らないので我慢して花束を受け取った。(秘密にしていたわけでなく、言うタイミングを逃した結果だけれど)
小さくはあるけれど、可愛くて綺麗な花束だった。花束は、まだ小学生の景太にとってそれなりに値が張る物のはず。漫画やお菓子を買うのに必要なのに、私へのお祝いのために買ってくれた。
なんて可愛い弟なんだろう!
「ありがとう、ケータ。あのね、まだ大学のために家を出るのは先でしょ?その間に一緒に出かけない?」
「え?」
「受験で忙しくて、前はよく一緒に出かけてたけど最近は無理だったでしょ?なら、まだ時間があるし、明日明後日にでも……どうかなって。ケータが無理なら、構わないけど」
友達によく弟と仲良いね、私はあまり一緒に出かけたりしないよって言われたことがあったっけ。
小さい頃弟が出来たとき凄く嬉しくて、ずっと景太から離れないでべったりして。景太もそれを普通に思っていたのか、2人でくっついてよく遊びに行っていたのだ。私の受験だったり景太も友達が増えたりして、出かけることが減っていた。
「うん!行く!明日、明日行こうお姉ちゃん!」
「良かったですね、ケータくん!」
「よかったニャン!」
キラキラと瞳を輝かせて笑う景太にほっこり。これで反抗期とかが来て、お姉ちゃんなんか嫌い話しかけんな!とか言われた暁にはお姉ちゃん泣いちゃう。
クマやカンチと遊ぶから、また後で!と、景太が慌てて階段を駆け下りていく。白いお化けみたいな妖怪と赤い猫又がそれを追いかけていった。
私も階段を下りる。花瓶にこの花束を飾ろうと思って。
台所ではお母さんが昼食を作っていた。デミグラスソースのいい香りがする。ぎゅるぎゅる、お腹が鳴いてしまう。
「ななし、どうしたの?今日はお昼は知り合いと食べに行くって言ってたわよね」
「これ見て。ケータが合格祝いに花束くれたの。花瓶に飾ろうとおもって……。なんかいい花瓶ない?あ、皿だそうか?」
「ううん、大丈夫よ。あ、玄関に飾っていた花もうそろそろ枯れてしまいそうだから、それに使っていた花瓶使っていいわ」
「ありがとう、お母さん」
「ふふ、ケータが朝早くに財布抱えてどこ行ったのかなって思っていたんだけど、ななしのために花を買いに行っていたのね」
ケータってばお姉ちゃんっ子なんだから……これがシスコン……?と呟くお母さんに、笑って返す。
「私もケータ大好きだから、ブラコンだね」
花瓶に花を入れて自室の棚の上におく。引っ越すために少しずつ片付けていて、元々殺風景な部屋はますます味気をなくしていた。けれど、桃色や黄色の鮮やかな花が映える。よしよし、いい感じ……とスマホの時間をチェックする。もうそろそろ向かった方がいい時間だな。
部屋にある鏡で身嗜みを整える。何せ今から人……いや人と言って正しいのか分からないけど、とりあえず会う用事があるので。髪にハネなし、ワンピースに皺なし!鞄を持って
「いってきます!」
「行ってらっしゃい、気をつけて行ってくるのよ」
「はーい」
待ち合わせはおつかい横丁の商店街にある北風ラーメンである。
前日まで自転車で向かおうと思っていたけど、晴れてはいるもののまだ吹く風が冷たいから、歩く方がマシかなって。
「おや、ななし。お出かけかのう?」
「こんにちは、ひも爺。そうなの、大学合格祝いにね、知り合いがラーメン奢ってくれるんだ」
「そういえば合格したんだったのう。それじゃこれはワシからの祝いじゃ」
「ドロップ缶だ!私、これ好き。ありがとうね、ひも爺」
コトンと掌に置かれたドロップ缶を鞄にしまう。
お腹が空いてしまったからコンビニに向かうかのうとゆっくり歩き出したひも爺を見送り、私もおつかい横丁へと足をすすめた。
暖かい中食べるかき氷は美味しいと笑うゆきおんなに、何かに闘志を燃やすメラメライオン。電線に乗って揺れて遊ぶでんぱく小僧、手を繋いでぷかぷか風に乗ってデート中のホノボーノとドンヨリーヌ。
服屋の前で全力でポーズを決めるモノマネキンには思わず目を止めてしまった。あまりに集中して見るあまりに人とぶつかってしまうぐらいには衝撃的なポーズだったと言っておく。
「わっ!?すいません…………、あ、先生」
「気をつけて歩いてね、天野さん。……まあ、丁度待ち合わせ相手に会えて良かったかな?」
ぶつかってよろけてしまった私を支えていたのは白いスーツに包まれた腕。鼻をくすぐる白檀の香り。
立っていたのは私が昔通っており、今は弟の景太が通うさくら第一小学校の理科を担当する通称「理科の先生」。そして先程彼が言ったように私の待ち合わせ相手でもある。ファンクラブもあるほどのイケメンなのだ。……人ではないのだけども。
にっこり優しく笑って私を支えている彼の姿に見とれてあるく女子高生やOLが多いが、それなりに長い付き合いの私にはわかる。これは私を馬鹿にしたときに見せる笑顔である。
くそ狐め……と言いかけた言葉を飲み込んで、ありがとうございますと礼を言った。
「じゃあ、行きましょうか。北風ラーメン!」
「ああ、そうしよう」
北風ラーメンで先生と向かい合って座って頼んだのはスペシャルラーメン。
伊勢海老やらチャーシュー、味玉などとことん具材が盛られたスペシャルなラーメン。味だってもうほっぺたが落ちる美味しさなのだ。毎日食べちゃいたいぐらい。ただやはり値段は1200円とお高め。高校生の財布には痛い出費。だから合格祝い何がいい?と先生から聞かれたときに北風ラーメンのスペシャルラーメン奢ってくださいと即答した。
「家族に連れてきて貰えば良かったんじゃないの?」
ずず、スープを飲んでいる時に話しかけられた。
魚介類の濃いだしがきいたスープがおいしい。
「うーん、家族とはこう、家でお母さんがつくったご飯を皆で囲んで食べたくて。もう暫くは母の味なんて味わえなさそうだし。それにあんまり両親がラーメン好きではないんですよ」
チャーシューなんて分厚くて食べる前からもう期待でヨダレがたくさん出てくる。
如何にトッピングのタワーと麺とスープを丁度よく食べ進めるかが重要だと思う。
「あと、先生だから……ですかね。ラーメン奢ってもらいたいなって思ったの」
「僕?」
「はい、先生と初めて会った時に奢ってくれたでしょ、ここのラーメン」
「……うん、そうだった。天野さんがまだ妖怪との触れ合いに慣れていなかった時でもあったね」
「そうだったんですよ」
ラーメンを食べながら私は話し出した。昔の思い出を。
小学生1か2年生になったぐらいで私はひょんな事から妖怪が見えるようになった。
まあ、ひょんな事というか、私がやらかしてしまったことなのだけど。ケマモト村にあるおばあちゃんの家の机の上に見つけた綺麗な玉。どうみてもビー玉だったのだが、何故か私は美味しそうな飴玉と思い、そのままビー玉をぱくんと口に入れた。
そしていきなり聞こえた見知らぬ人の「それを吐き出して!」という焦った声に驚き、ごくんと飲み込んでしまったのだ。
ビー玉を飲み込んだ瞬間に、私は再び驚く羽目になった。今まで私1人しかいなかった部屋に人影が幾つもあった。しかも人間とは言いきれない見目をしていた。「おい、なんで食べちゃったんだ!」小さな人型であるけれど全身真っ黒で黒くないのは薄黄色の瞳だけであるなにかにそう飛びつかれた時に私の驚きはキャパを超え、気絶した。
目を覚ますと私はおばあちゃんに膝枕されていた。
優しそうなおばあちゃんの笑顔に安心した。きっとさっきの見たものは夢だったんだ……って思った時だった。
「大丈夫だったか?」
ひょっこり、さっきの黒い小人がおばあちゃんの影から飛び出してきた。
「うわあああああああああーーーーーッ!」
そういっておばあちゃんの膝から跳ね上がったのだが、その先にいたのはまたもや見知らぬ少年。おかっぱ頭に、着物姿をし、釣竿を持っていた。
「キミ、大丈夫?」
「ひい!?」
他にもなんか浮いてるやつ、飛んでるやつ、人型のやつ、そうじゃないやつ……。
またもや気絶しかけてしまったが、おばあちゃんが大丈夫よ、怖くないわと落ち着かせてくれたおかげでなんとかなった。
「よーかい?」
「そう、ななしが飲み込んでしまったビー玉を通して見るとね、妖怪が見えるのよ。ほらおばあちゃんの眼鏡にもビー玉が取り付けてあるの」
「本当だ……。じゃあ、周りにいるみんなはよーかいなの?」
「そうだよ、ボクは座敷わらし!」
「ぷぅか〜こえんら〜」
「う、うん……。よろしく……?」
「それでオレが妖怪ガッツKだ!」
名前に妖怪が入ってるんだ……。Kってどこからきたの?
おばあちゃんと家に住み着く妖怪たちから話を聞く。
ビー玉を飲み込んでしまったけどそれによって身体に問題は無い。妖怪が見れるようになったことは問題に入らないのだろうか。
「妖怪ウォッチっていうのがあってね、妖怪と友達の証、妖怪メダルをそれにいれると、友達になった妖怪を呼べるの」
「おばあちゃん、くわしいね」
「勿論。だって妖怪ウォッチを作ったのはね……。ううん、まだ内緒。いつか教えてあげる」
「ええ、なんでー?……まあいっか」
そしておばあちゃん家にいるあいだは妖怪ガッツKをはじめとした妖怪たちと遊んで回った。そのときは景太が生まれたばかりで両親が忙しくしていて、暇にしていた私にとってとても楽しい思い出だった。
最初は妖怪にビビっていたこともあったけど、最後は慣れた。いつか妖怪ウォッチを手に入れたら、呼び出してねと妖怪メダルをくれた子もいた。
ズズリ、麺を啜る音がする。
「そういえば、天野さん、妖怪ウォッチどうしたの?身につけてはいないようだけど……小学校時代、身につけていたよね?」
夢中で昔話をしていたのを、先生に遮られ思わずムッとしてしまう。
しかしおかげでラーメンを食べる手を止めてしまっていたことに気付き、慌てて麺を啜る。伸びた麺はあんまり好きじゃない。
「ええ。友達妖怪が安く手に入ったからってプレゼントしてくれた妖怪ウォッチがありましたよ。小学生のころは付けていても問題無いデザインだったんですけど、中学生や高校生になると……」
まだ初期の妖怪ウォッチ。今はペンダントとか可愛らしいデザインのものもあるようだけど。
最初は気にせず着けていた妖怪ウォッチ、けれど同級生からまだそんなダサいデザインのものを着けているの?と笑われてから身につけなくなった。部活に勉強に、昔よりすることが増えて、妖怪たちと遊ぶことも友達になることも減って。
「だから返しちゃいました、妖怪ウォッチ。私が持ってても宝の持ち腐れですから。メダルも返してしまおうと思ったんです。……でも」
例え呼び出すことの出来る妖怪ウォッチがなくなったとしても、遊ぶことが減ったとしても、私たちが友達だったことには変わらないから。だからその友情の証は持っていて。そう言ってくれたのだ。私に妖怪ウォッチをプレゼントしてくれたソフトクリーム好きな妖怪のお友達が。
道であったら話しかけてくれたり、気分が落ち込んでいたら励ましてくれたり。縁を切ろうとさえしかけていたのに。嬉しくて、ちょっとほっとしたことを覚えている。
「よかったじゃないか、友達が全員友達でいてくれてさ。ねえ、ななし」
「なんか化けの皮が外れてません?でも、うん、本当に良かったです。妖怪のみんなと友達でいられるか、不安だったから。……生意気というか意地悪で、友達になる前も後も油揚げを強請るキツネ妖怪もいたんですけどね、ソイツもメダル返せ、なんて言わなかったんですよ。意外でした」
ピクリと眉をひそめた先生の顔におもわずニヤつく。
昔からこいつには言いくるめられたり馬鹿にされたり騙されたり色々あったので、仕返し出来たときの喜びよ。
「はいはい、早く話しなよ……、ねえ、味玉貰っていい?」
「駄目です、最後に取ってるの!」
そう、まあなんやかんやあって、私は妖怪が見えるようになったままおばあちゃんの家から帰ることになった。
ケマモトでは会えなかった妖怪もたくさんいて、私ははしゃぎっぱなしだったことを覚えている。
おばあちゃんやガッツKたちに、「妖怪はみなそれぞれ能力を持っている。妖怪らに悪意がなくとも、ななしには大変なことが起きてしまうかもしれないから、くれぐれも妖怪と遊ぶときは気をつけるように」と警告されていたことはすっからかんと忘れて。
ある日人間の友達、妖怪の友達にと遊び尽くしてへとへとになりながらの帰り道。
「こっちこっち!」
「へ?」
1つ目の青い身体の小鬼ーーみちび鬼という名前だと後に知ったーーに手招きされた。
疲れていたけれど、新しく出会った妖怪だったからかふらふらとみちび鬼の後を追った。みちび鬼は素早く、見失うかもしれないと不安になったが、みちび鬼は私が遅れていると、少し間をあけながらも私を待ってくれていた。遊びたがり屋さんなのかしら、なんて思いもした。
「さーて、何が出るかな?」
立ち止まったみちび鬼に声をかければ、ぼふんと音をたてみちび鬼がいた場所には金色のギョロっとした目が付いた箱が置かれていた。奇妙なデザインに臆することなく箱を開き、入っていたくじ引き券を手にとった。箱にはくじや、ちょっとしたお菓子が入っていることを知っていたのである。
「ふふ、駄菓子屋でくじ回そうっと!……あれ、ここ、どこ?」
ぐるりと周りを見渡すと、見慣れない風景がそこにあった。人に道を聞こうと思い歩くも、全く人とも出くわさない。何時もいる、妖怪でさえも姿が見えない。まるで自分が一人ぼっちになってしまったような、そんな感覚に襲われる。どうしよう、どうしよう。疲れて脚が痛くなる、お腹が空いてくる、限界だった。
「うう……。パパァ、ママァ…………」
ぐすぐす、鼻を鳴らし、ポロポロ涙がこぼれ落ちる。握り締められたくじ引き券はクシャクシャになってしまっていた。
「全く……、妖怪が見れるようになるっていうのも大変だよ。封印か何かで見れなくする手もあったはずなのに」
「え……?」
「お駄賃として油揚げを貰いたいもんだよ」
小鬼が消えたときのようにぼふ、と煙をたて現れたのは九つの尾を持つキツネ。
私はなんとなく、妖怪だなって思った。
「おキツネさんも、迷子?」
「ボクが?……そんなわけないでしょ。迷子を探しに来てあげたんだよ」
「迷子……?」
周りを見渡すが迷子になっていそうな子が見当たらなかった。誰のことを言っているのかしら。
ズズ、スープを飲む音がする。
「あの時は阿呆だと思ったね。どうみたって、迷子なのはななしだったのに、これっぽちも察しつかない顔で。馬鹿で阿呆なのかな?って思ったよ」
「煩いですよ」
先生の無駄に長い脚を蹴ろうとするも、軽々と躱される。しかも君、脚短いねなんて煽りまでしてくる。
店内には今流行りのニャーKBの新曲が流れ、ザワついているからって先生の皮を外しているのはどうかとおもうけど。
ここで腹を立てたら、先生の思い通り。
もう……と思いながら話を再開させる。
迷子が誰か分からず首を傾げる私に、おキツネさんは呆れたようにため息ひとつ。
「君に決まってるでしょ……」
おキツネさんにくじ引き券を握る手と反対の手を握られる。爪が長い手に思わず竦んでしまったけれど、私の手に爪が刺さらないように優しく包んでくれていることに気付く。
「おキツネさん、私のお家知ってるの?あのね、追いかけっこしてたら、道がわからなくなっちゃったの。
誰もいないから道も聞けないの。ここ、どこなの?」
「ここは、君の知らない世界だよ。彼岸に近い世界だ。……本来なら、普通の人は来れない場所なんだけどね。運の悪いことに逢魔が時に、みちび鬼にみちびかれて迷い込んでしまった。逢魔が時は、あらゆる境界が曖昧になってしまうから」
「ひがん……?おうまが……?」
「……まだ難しかったね。ちょっと失礼するよ」
ひょいとおキツネさんに抱えられ、一気に高くなった視界に思わず悲鳴をあげる。
「ちゃんと捕まっていてね。今から元の世界……君の家がある世界に帰るから」
「家にとどけてくれないの?」
「君、案外ガメつい?世界から世界に渡る時って、大体の場所なら想像した通りに辿り着けるけど、君の家ジャストには難しいんだよ。さあ、行くよ。しがみついていてね」
眩しい光に包まれ、即座におキツネさんの首に腕を回す。ぐえっと声がしたが、無理に腕を外そうとしなかった彼に、今では有難く思う。
あったかいふわふわなおキツネさんの身体はとても私を安心させてくれたから。
「はい、ついた。ここはおつかい横丁の裏路地だね」
おつかい横丁の言葉に反応する。数日前、家族とともにおつかい横丁の北風ラーメンでスペシャルラーメンを食べたのだ。
ラーメンは好きだったが、スペシャルラーメンはいつものよりとても美味しかったからすぐ気に入った。
「ここから帰れる?」
「うん……、おキツネさん、ありがとう」
話しながら漂う匂いに反応してしまう。これは北風ラーメン自慢のスープの匂いだ。
お腹は悲鳴をあげた。散々歩いた私は腹ぺこだった。
「お腹空いてるの、君」
「……ん、北風ラーメンの匂いするんだもん」
きゅうきゅう鳴くお腹を撫でる私に何を思ったのか、おキツネさんは再びため息を吐く。
急に生み出された紫の煙がもくもくと彼を包む。
「これならいけるでしょ」
「おキツネさん、人間だったの!?」
「変化だよ、変化」
金髪に、白い服装。顔はかっこいいな、なんて思った。
「でもなんで変化?」
「奢ってあげるよ、ラーメン」
さっきのように、また彼に手をひかれる。
変化をしたから彼の手はモフモフな獣の手では無く、すべすべでつるりとした人間の手。鋭く伸びた爪ではなく、短く切られた爪。でも、やっぱり優しく痛くない力で引く彼に思わず笑顔になった。
その後はラーメンを二人で食べた。スペシャルラーメンを頼んだ私はガメついね、君は!とデコピンをくらった。食べ終わったあとは無事に帰りなと別れようとしたおキツネさんにしがみついた。
「え、何!?」
「私は天野ななし!」
「名前がどうしたのさ」
「おキツネさん、今日はありがとうございました!!……それでね、私と友達になってほしいの!」
ずっと優しく扱ってくれたおキツネさんを、私はすぐに大好きになっていた。
だから今度は一緒にあそんでよ、と意味を込めて、友達になってと願ってみた。
「ふうん……。でも、今すぐは無理だよ。ボク、ランクが強い妖怪なんだ。僕に認められなきゃ、メダルは渡せられないよ」
「ええ!?そうなの!?……どうやったら認めてくれ
るの……?」
「ううん、じゃあまず初めに、またボクと会えたら。
ボクに認められる挑戦@にクリアってことで」
「分かった、約束は守ってよ!」
「ふふ、勿論。最も、君が僕を見つけられたら……だけど」
なんて、感動的?に別れたのにも関わらず。
カラン、空になった器にレンゲを置く音がする。
話を聞く側であった先生は、ずっと食べ進めていたお陰か、もう食べ終わっていた。
私の器に残るラーメンも、さほど残ってはいないので、慌てることなく食べていく。
「まさか上学年担当の理科専門教師だったとは笑いましたね」
「ボクは君がそれになかなか気付かなかったほうが笑えるよ」
そう、この先生もといおキツネさんもといキュウビは、人間に変化し、小学校の教師を勤めていたのだから驚きだ。しかも彼は私のことを認知していたが、私は全くキュウビが先生とは気が付かなかった。理由としては先生の担当は上学年の理科のみであり、まださほどの面識が無かったからだ。
それでも廊下であったことぐらいあるでしょ、と呆れた顔をされた。
「僕を見つけたら云々言ってたのに、見つけられる気満々だったんですね、先生」
「まあ元々、風の噂で君が妖怪を見れると聞いて、気になってたからね。それにすぐメダルを渡すつもりにはならなかったし」
「いや本当にね!なかなかくれなかったよ、キュ……先生は!」
僕に認められる挑戦さと手伝わされた理科の授業の準備に、荒らしてる妖怪退治を任されたり、油揚げやおでんのパシリにされたり……。
くそ面倒くさい思いもしたけれど、おかげで楽しかった時も多くあったからいいとしている。放課後よく理科の先生から呼び出されてファンクラブの女子たちに睨まれたことは許してないが。
「食べ終わった?」
「あ、はい。終わりました」
「じゃあ出ようか、天野さん」
約束していたようにラーメンを奢ってもらい、ホクホク顔で店を出る。商店街は少しだけ静かだった。
「まだ時間ありますね……。何処か行きます?先生」
「そうだね、じゃあ行こうか」
さし伸ばされた手を慣れたように握る。出会ったころはよく彼から握らって引っ張ることが多かった。けれど、何時の間にかよく行動を共にすることが増えて、手を指しだされれば握ることが当たり前になって行った。けれど、今までのようにこんなことをする機会は少なくなっていくのだろうと思って悲しくなった。
連れられて路地裏に入る。すっかり顔見知りになったネガティブーンたちに手を振った。
変化を解いて、キュウビの姿にとなる。
そしてキュウビに抱えられて空を飛ぶ。これも最初は怖かったけど、気付けば慣れてしまったことの1つ。
風に当たる顔が寒いけれど、キュウビのモフモフの身体が暖かいので気にする事は特に無く。
連れてこられたのはおおもり山の神社。神社からはさくらニュータウンを見渡すことが出来て、私もよく勉強に行き詰まったらリフレッシュしに来ていたものだ。
「もうこの風景も見れなくなっちゃうんだなあ」
また少し悲しいような寂しいような気持ちになる。
「……でも、夏休みとかにはこっちに戻ってくるんだろう?」
「そうだけど……。でも、やっぱりここを離れるのは寂しいよ」
この町も、ここにいる皆も好きだから。
「引っ越した最初は泣いちゃうかも……なんてね」
「そうなったら家に電話でもすればいいさ、それか……」
パチンとキュウビが指を鳴らした音が響く。
気がつけば、私の手首に見慣れたフォルムの時計。
景太が付けていた白いフォルムとも少し違う、使用感の残る妖怪ウォッチ。それは正しく私が付けていたものだった。
「これでいつでもボクたちを呼び出せるよ、よかったねななし」
「うん、よかったけど……。え、これなに!?」
「妖怪ウォッチだよ、君の」
「見れば分かるよ、なんで持ってるの渡したのって話!」
「キミが妖怪ウォッチ渡した子から渡してって言われた。あと、だってこれ使えば会えるでしょ」
最近里帰りのために、会っていないあの子のことだろうか。
妖怪ウォッチからキュウビへと目線をずらす。
真っ直ぐに此方を覗く金色とぶつかった。
「妖怪は何処にでもいるけれど、キミの友達はここにしかいないからね。会いたいと思った時に妖怪ウォッチが無かったら困るでしょ」
「……呼んでもいいのかな」
「当たり前。嫌だったら既にメダルを取り上げてるよ」
「キュウビも、呼んでいい?」
「変な時間に呼ばないでよ」
遠回しに、空いてる時間なら大丈夫だと伝えられていると分かって頬が緩んだ。
「じゃあ、呼ぶ。悲しくなくても呼ぶ。会いたくなったら呼ぶ」
ちゃんと人間の友達も作りなよ、なんて返すキュウビの尾が機嫌良さそうに揺れている。
引っ越す前に1度は油揚げをこのおキツネ様に献上してやろうかな。