「う、あ、いや……!!」
部屋に響く自身の声により、カッと目を開ける。ここは自室で、ベッドの上だ。カーテンから漏れる朝日に思わず目を潜める。見慣れた天井を見上げながら、何故か天井の方へ突き上げられた右腕を見つめた。その手は何かを必死に掴むかのように強く握られている。
そっと手を開くが、そこには何も無い。
「桃子、どうかしたの?隣まで声が聞こえたわ」
早朝だからか、静かにドアを開け、不安そうにこちらに向かってきたのは双子の姉の杏子。何時もきちんとドアをノックしてから部屋に入ってくるので、先程の叫びが余程心配をかけるものだったのかもしれない。
「夢見ちゃったみたい……。うわあ、汗で全身ぐっしょりしてるや」
下着が汗のせいで湿りを帯びており、顔を顰めた。制服に着替える時にあわせて、下着も変えなくてはならなくなってしまった。面倒くさい。
ベッドの傍にしゃがんだ杏子は、桃子の額に手を当てる。ひんやりした手が気持ちよく思った。
「どんな夢を見たの?汗は、昨日ずっと熱があったからかな……。でも今日は大丈夫そうね、学校行く?」
「夢の内容は……よく覚えてないんだよ。なんか変な感じって思ったけど、それだけ。うん、元気になったし行く!」
「まあ夢って覚えてる方が珍しいらしいからしょうがないよね。良かった、遊戯も心配してたよ」
「心配させちゃってた?一日休んだだけなんだけどなあ」
軽い様子でそれだけで心配しなくて良くない?と続けると、杏子に容赦なくデコピンを放たれる。パチン!小気聞きのよい音がする。思わず額に走った痛みに悶絶し、頭を抱え込む。昔から杏子は桃子の言動を窘める際にデコピンを用いるのだが、年々デコピンの威力が上がっているようにしか思えてならない。
「心配するわよ、私だってしたもん。桃子が小さい頃ずっと寝たきりだったの覚えてるからね、私と遊戯は」
「昔のことじゃん。最近は元気にしてるってば」
「そうだとしても、よ。あ、このまま話し続けていたら遅刻しちゃう」
「あたしまだ学校の準備をしてないから、したらご飯食べにリビング行くよ。先に行ってて、杏子」
分かったと部屋を出る杏子を見送り、スクールバッグの中の整理を始める。昨日は熱のせいでずっと寝たままだったから、学校へ行く前か行った後で杏子に今日の予習を聞かなくてはならないだろう。
あらかた準備を終え、リビングへ向かおうとした時に
机の上に置きっぱなしだった鍵のネックレスのことを思い出す。小さいけれど、ずしりとした重さを持つ金で輝くネックレス。中央には、ほの暗く輝く赤の石が飾られているもの。
「これが無いと始まんないよねえ、あたしの一日は」
ペンダントを首につけ、早く来いと呼ぶ家族に桃子は返事を返した。