昼休みが始まり食事を終えた桃子は、男子たちとバスケをしに行く杏子や級友を見送って幼なじみの元へと向かう。
「遊戯!」
「桃子は皆とバスケしに行かなくてよかったの?ボクが入ったチームは負けちゃうから、ボク行かなかったんだけど」
「あたしも運動得意じゃないし、それにあたし遊戯よりもちっちゃいんだよ?皆の足引っ張っちゃうよ」
桃子は遊戯の席の前の椅子を勝手に拝借することにした。昼休みだから、教室に残る生徒は少ないし、本人が戻る前に、席を戻しておけばいい。
「じゃあ、ゲームする?たくさん持ってきてるんだ」
「するするー!遊戯がおすすめしてくれるゲームってハズレがないし面白いんだよねえ」
いそいそと鞄の中を探し出す遊戯を、上から覗き込んでいた桃子は、鞄の底でキラリと輝く箱を見つけた。
「その箱って、ずっと前にあたしにみせてくれたやつ?」
「覚えてたの!?」
少し驚いたように遊戯は顔を上げる。桃子は当たり前でしょ、とブラウスの下に常に隠しながら付けている金の鍵型のペンダントを引っ張り出した。
「ほらー!その宝箱に一緒に入ってたやつ、遊戯が御守りって言ってくれたでしょ。あたし、これ宝物なの。貰ってからずっと大切にしてる!」
そうにこにこ笑って、ペンダントを大切そうに掲げる桃子を見るとなんだかすこし胸がこそばゆい気持ちがして、遊戯は照れ隠しするようにほおをポリポリ掻いた。
幼いころは特に体が弱く、入退院を繰り返しており、学校にもあまり行けなかった桃子にとって、杏子と杏子が連れてきてくれた遊戯だけが遊び相手だった。(他にも、杏子は同性のクラスメイトを連れてきたこともあったのだが、なかなか桃子とは反りが合わず、高校までずっと繋がりがあるのは遊戯だけだ)
そしてある日、病室へと見舞いにやってきた遊戯は桃子に黄金に輝く宝箱を披露した。祖父から貰ったのだと、そして宝物に入っていた鍵を御守りと称し、プレゼントしてくれたのだ。桃子が元気になるように、ボクが願いを込めたからねと笑って。
「ふふ……。そう言われたとき嬉しかったなあ、すごくあたしのメンタルが死んでた時でもあったし……。もしかして私が今生きてるのも遊戯のおかげじゃない?この御守り貰ってから元気になっていった気がするし……」
「そんなことないぜ、桃子が頑張って病気と戦ったからだよ!」
思わず声を大きくした遊戯の方を向く桃子に、宝箱を取り出しながら、頬を赤くした彼は新しい話題を繰り出した。
「そ、それより具合はどう?昨日は体調崩しちゃったんだよね?」
「杏子にも心配されちゃったんだけど、元気だから大丈夫だよ!というか具合が悪いのより、なんか最近変な夢見るのが嫌なんだよね」
「そんな変な夢を見るの?」
「うーん、あんまり覚えてはないの。でも起きた時なんとなく嫌な感じがするから、困ってるんだよね」
「ボクも朝起きるのは嫌だぜ……寝たはずなのに眠い……」
「遊戯はずっとゲームしてるから寝不足なんでしょ!」
そりゃそうだと2人してカラカラ笑った後、コトリと机に置かれた宝箱に視線を移す。この宝箱の中身を、持ち主である遊戯は勿論、桃子もペンダントを渡される際に見せてもらっていたので知っていた。
そして遊戯は宝箱を開けようとしたのだが。
「お前ら何ヒソヒソ話してんだよ!」
「あ、ボクの宝箱返してよ!」
背後から現れたクラスメイトの本田、城之内らによってひょいと宝箱は取り上げられてしまった。小柄な遊戯は必死に取り返そうと奮闘するも、2人は宝箱をパスし合って、遊戯の元に宝箱が戻らないようにしていた。
「ちょっと、それは遊戯の大切なものなの!返してよ!」
「はあ?チビは黙ってろよ」
そんな状況を黙ってみることが出来る桃子ではなく。声を上げるものの、遊戯よりも華奢な彼女に対し、城之内は小馬鹿にした笑みを浮かべた。
「なによ!」
「わーっ、桃子落ち着いて!」
早速彼女は城之内に飛びかかろうとしたところを遊戯によって抑えられた。
クスクス笑ってその様子を見ていた城之内らは、遊戯を男らしくするための指導をすると言い出したが、遊戯は暴力は大嫌いなのだと断り、再度宝物の返還を求めた。
しかし、彼の希望は却下され、勝手に宝箱を覗かれてしまって。しかもその中身をつまらない物だなんて。我慢ならないと、桃子が再び飛びかかろうとした時であった。
「あ、杏子!」
思わず叫ぶ。本田へとパスされかけた宝箱を空中でキャッチしたのは、バスケをしに行っていたはずの杏子であった。
彼女の一喝により、教室から城之内と本田は飛び出していき、宝箱は無事に遊戯の元へと戻って行った。
「よかった、杏子が来てくれて……。でも早かったね、バスケから戻るの。昼休み、まだあるのに」
「それなんだけど聞いてよ、桃子、遊戯!」
ぷりぷり怒った様子の杏子が言うには、バスケで男子がやたらと女子にパスを回しており、目的は所謂覗きであったようだ。
最低、すぐやめてきちゃった!と告げる杏子に桃子はそれが正解と頷いた。
思わずいい!!バスケ!と反応した遊戯は双子から少し怒られたが。
「で、なんなのこれ?」
杏子が指したのは先程、城之内から取り出した宝箱。
秘密を守るなら見せてあげると遊戯は、宝箱を開く。そこに入っていたのは、金色に輝く、まだ組み立てられていないパズル。桃子が最初に見たままの姿で残っていた。
「何かの部品?バラバラだけど」
「確かパズルだよ……。そうだよね、遊戯?」
「そう、パズル!まだ完成させたことないから、どんな形になるか分からないけど━━━……」
「見えるんだけど、見たコトがない」モノ。それがこのパズルだった。
「ボクん家、ゲーム屋だろ!いろんな国の珍しいゲームを売ってるんだ。これは昔店の棚のすみでホコリ被ってたのを見つけて貰っちゃったんだ!このパズルはじいちゃんのカタミで気に入ってるんだ」
「「か、カタミ!?」」
思わず桃子と杏子は顔を見合わせる。形見ということは、遊戯の祖父、双六は死んだというのだろうか。
杏子はひそひそと桃子に囁く。
「遊戯のおじいさん死んじゃったんだ……。なら大切なもののはずよね……」
「凄いびっくりした……。最近は遊戯の家に遊びには行かないから、おじいさんにも会う機会減ってたけど」
少なからず桃子は双六にお世話になった記憶がある。そのため、彼の死の知らせが無かったことに彼女は驚いてしまった。近くにでも、線香をあげるために遊戯の家を訪ねようと決めながら。
「このパズルはエジプトの遺跡で見つかったんだって!」
遊戯は、二人の微妙な空気をさほど気にすることなく話し続ける。再び同じ話の内容に触れるのもどうだろうと、目配せした杏子と桃子は、遊戯の話に乗ることにした。
「じゃあ、このペンダントもエジプトから来たんだ」
「そういうこと!……ホラ、箱に変な文字が刻まれてるだろ?ボクが推測するに、こんな意味のことが書いてあると思うんだぜ。このパズルを解いた人にはもれなく願いを1つ叶えてあげよ……ってさ!ちょっと都合が良すぎるかな……。パズルも超むずかしくて、8年もトライしてるのに未だに完成しないんだ……」
しょんぼりと下を向く遊戯を、二人で励ます。
「願いがこもってるんでしょ!遊戯、頑張りな!」
「頑張って!遊戯が願いをこめてくれたペンダントのおかげであたし元気になったんだから、遊戯の願いもきっと叶うよ!」
「へへ……2人ともサンキュー!頑張るぜー!」
「……で、遊戯の願いってなんなの?」
「ダメダメ!これだけは絶対内緒の秘密だせ!」
超完全真空パック状態の永久保存版さー!と続ける遊戯に、桃子と杏子はそこまで言うならしょうがないなと笑うのであった。