「…あれ、ユノ君寝てる?」

いつも通り放課後になるとここが自分の居場所だと言わんばかりに普通に入って来るユノ君。
もうすぐある期末試験に向けて勉強しに来たと言うけど、帰って家でやるという選択肢は無いのだろうか。

カリカリとシャーペンの音が聞こえなくなった事に気付いて休憩スペースへ視線を向ければ机に腕を乗せてそこに突っ伏したまま眠るユノ君がいた。

「おーい、ユノくーん…。寝るのなら早々に家に帰りなさーい。」

近寄ってユノ君の肩を軽く叩きながら声を掛けるけど少し顔を動かして規則正しい寝息が聞こえるだけで、仕方なく今私が着ている白衣を脱いでそっと掛けてあげた。

「…普段は大人っぽく見えるユノ君も眠ってたら年相応に見えるのね…。」

隣の椅子に座りながら普段は恥ずかしくて見れないユノ君の顔をまじまじと観察する。
肌白いし睫毛が長い。
鼻も高いし本当に整った顔だなぁと心の中でそう思う。

「…女の子達にモテるでしょうに。…何で私の所に来るのかねぇ。」

つんつん、と頬を突っつきながら聞こえてないのをいいことに思ってることを呟いた。

こんな年の離れた女より、もっと綺麗で可愛い女の子が周りに沢山いるんじゃないの?

…でも、もし、ユノ君が他の女の子と付き合ったら多分もうここには来ないんだろうな。
自分で想像していることなのにキュッと胸が締めつけられて痛い。

ユノ君が保健室に来ていることがいつの間にか私の中で当たり前のことになっている。

「クロハ先生…?」

そっと声を掛けられてユノ君が起きていることに気付いた。

「あ、ユノ君起きたんだ。もう、寝るなら早く家に帰りなさい。」

心の中で思ってた事を見透かされないようにワザと冗談ぽく言う。
でもどうやら杞憂のようで起き抜けのユノ君はぼぅっとしてて普段のクールな感じとギャップがあって少し可愛い。

「試験近くて夜遅くまで勉強してるんでしょ?ほら、今日はもう早く帰って休みなさい。」

テーブルに広がっている教科書や参考書を適当に片付けてあげなら言えばパシッと突然手を掴まれた。
驚いてユノ君を見ればじっとこちらを見つめてくる。

「…?えっと、ユノ君…?」

「…ご褒美が欲しいです。」

「………へ?」

突拍子のない事を言われて気の抜けた声が出てしまった。

「今回の試験で俺がもし学年1位取ったらご褒美下さい。」

「…あ、そういう事ね。……て、ええぇ!?」

教壇には立っていないけど仮にも教師の私に堂々とそういう事言えちゃうユノ君はさすがだと逆に感心してしまう。
しかも◯◯位以内とかではなくて学年首席を狙うとは…。

まあでも確かにご褒美があれば頑張れる気持ちはすごく分かる。
現に私も学生だった時、欲しい物を買ってもらうのを条件に勉強頑張ってた口だし…。

「うん、良いよ。ご褒美かぁー…。あ!購買に売られてる激レアやきそばパンとか?」

生徒の間で美味しいと評判のやきそばパンを提案してみたけどジト目で私を見るその顔に早々に案を引っ込めた。

「…うぅ…ご褒美って何が欲しいの?」

「クロハ先生と1日デートしたいです。」

「…で、デート…!?」

いや、それはさすがに。
誰かに見られでもしたらアウトだよ。

断ろうとしたけど掴まれている手に力が入れられてこれはもう逃げれないわ、と直感で分かった。

「良いよって言いましたもんね。クロハ先生…?」

「…は、ハイ…。」

半ば脅されてる気がしないでもない。
私がそう返事すれば微かに口角を上げて笑うユノ君にドキッと高鳴り慌てて視線を反らす。

「デート楽しみに待ってて下さい。」

それはもう決定事項かのように目を細めて笑うユノ君に高鳴る心臓が更に加速を増して私の頬が真っ赤に染まってしまったのは仕方ないと思う。
そして心の片隅で少しでもユノ君とデート出来る事が楽しみだと思った私がいた。



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