「クロハ先生とユノさんはお付き合いされてらっしゃるのですか?」

「?!!」

突然投下された質問に抱えていたファイルと書類を全部落としてしまい、バサバサバサ!と盛大に散らかしてしまった。

今日は放課後に保健委員の会議があり、委員の一人であるミモザさんと一緒に後片付けをしている真っ最中だ。
普段は割りとほんわかのほほんとしている彼女だけど、どうやらこの手の事には敏感になるようで。

恐るべし女子高生。

「…ど、どうしてそう思ったのかな?」

「この間のお休みの日にショッピングしてましたら仲良さそうに手を繋ぐお二人をお見かけしたものですから。もしかしてと思いまして…。」

「(…み、見られていた…!)」

落としたファイルと散らばっている書類を拾いながら私は内心ダラダラと汗を流す。

どう言い訳しよう…。
怪我をしてしまって支えてもらってたと言おうか?
実は手なんて繋いでないと否定する?

頭の中で言い訳の言葉を並べる私の前にミモザさんがそっと近寄って来て散らばっている書類を一緒に拾い集めてくれる。

「あ、いいよ!ミモザさん!私が散らかしちゃったんだし…。」

「私…ユノさんの楽しそうな笑顔見るの初めてなんです。」

「…え?」

突拍子もなく言われた言葉にピタリと止まる。

「教室に居るユノさんは無表情で無口でいつも何を考えてるのか分からない方で…。少し怖い方だなと思ってて…でもクロハ先生と一緒に居るユノさんは凄く楽しそうで…ちゃんと笑える人なんだって思いましたの。」

ミモザさんの話を聞いて、そう言えば私は教室にいる普段のユノ君を知らない。
いつも保健室にやって来て冗談なのか本気なのか分からない言葉や行動でからかってくるユノ君しか知らない。

「…クロハ先生ももう少し自分の心に素直になっても良いと思います。…先生は先生だけどそれ以前に恋する乙女なんですもの。」

「…恋する、乙女…。」

言われた言葉を自分の口で復唱すれば次第に熱くなる頬。

林檎みたいに赤くなってるであろう私の顔を見てミモザさんは嬉しそうに微笑んで、散らばっている書類を全部拾ってくれた。

「これで全部ですわね。…あら、もうこんな時間ですわ。」

「…あ!ご、ごめんね!後片付け一緒にしてもらって!ほとんどミモザさんに片付けしてもらったようなものだね…。」

時計を見れば下校時間はとうに過ぎており、外は真っ暗になっていた。
女の子一人だと危ないから途中まで一緒に帰ろうと言ったけど、迎えの車が待機してもらってるらしく大丈夫だと断られてしまった。

「私よりもクロハ先生の方が危ないですから良ければ車で先生のお家まで…。」

そこまで言ってミモザさんの言葉が途切れる。

不思議に思って彼女の視線を辿れば誰かが来る足音がしてガラっとドアが開きユノ君が入って来るもんだから驚いた。

「ユノ君…!?え、まだ残ってたの?」

「ん…クロハ先生と一緒に帰ろうと思って。」

「ふふふ、なら私は返ってお邪魔になりますわね。先生、これで失礼しますわ。」

ペコリと頭を下げ鞄を持って保健室から出て行くミモザさんの背中に手伝ってくれた事のお礼を言えば小さく手を振ってくれた。

「俺達も帰りましょう。送ります。」

「!も、もう遅いんだから私が…。」

そこまで言ってふと考える。

今日保健室で会議がある事を一応伝えていた筈のユノ君はそれでも終わるのを待っていてくれて。
遅い時間に帰る私を心配してそうしてくれたのだろうか?

"もう少し自分の心に素直になっても良いと思います。"

そうだとしたら…心配してくれてるのなら嬉しいと思ってる私がいる。

「…クロハ先生?」

「駅まで…お願いしようかな…。」

自然と出た言葉に自分も驚いたし目の前にいるユノ君も一瞬驚いた顔をしたけどすぐに嬉しそうに微笑んで私の手を取った。

あ、笑った。
この表情がもし私の前だけのものなら…。

ユノ君の私への好意が本物なら…。
少しだけ自惚れてもいいのかな…?

繋がれた手から伝わるユノ君の体温にドキドキが止まらなくて、ぎゅっと少しだけ握り返すのがやっとだった─…。

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