02

結局一睡も出来なかった…。

飛行機を出て手続きをすませ、周りを見渡す。今から電車か地下鉄かバスを使って実家へと帰らなければならないのだが、ただでさえ疲れているのに久々の日本で地理感覚も麻痺していて頭が働かない。一旦何処かで休憩してから動こうと足を進めた瞬間、誰かにぶつかった。


「すみませっ…」


ぶつけた鼻を押さえながら顔を上げると、見知った人物が仁王立ちでこちらを見下ろしていた。周りの人がビクビクしながらその人を避けるように歩いているのが嫌でも視界に入る。


「炎司さ…」
「エンデヴァーだ。それにしても酷い顔だな」
「出会い頭に失礼な…。お久しぶりです」
「御託はいい。付いて来い」


御託って、普通に挨拶でしょ。
スーツケースを奪い取って前を歩くその人物に苦笑いした。炎司さんは両親と同期ということで顔見知りではあるが、幼い頃に数回しか会ったことがない。

何でここにいるの?とかどうやって来たの?とか私が日本に帰ること誰から聞いたの?とか、色々聞きたいことはあったが全て飲み込んだ。3つ目の質問に関しては、当てはまる人物が1人しかいない。


「今日はウチに泊まれ」
「へ?あ、でも…」
「何か問題があるのか」
「いえ、ないんですが。私実家に帰れれば別に…」
「問題ないならいいだろう。ウチに泊まれと言っている」
「あ、はい。それじゃ…お世話になります」


なんと、まぁ。暴君である。睨んできた目が鋭くて、怖かった。反抗すべきではないと判断し、口を閉じる。余計なことは喋らない方がよさそうだ。

無言のまま暫く付いて歩くと、駐車場に着いた。停めてあった高級車の後部座席にスーツケースを投げ入れられた。人の物なんだからもっと丁重に扱ってほしい。
早く乗れと目で合図してくる炎司さんに冷や汗をかきつつ、静かに助手席に座った。後ろに座りたかった。


「……病院寄るか?」
「いえ、母の件なら大丈夫です。落ち着いたら自分の足で行きますので」
「…フン、そうか」


ゆっくりと発進し始めた車に、意外に安全運転なんだなぁと感じたのも束の間。気づいたら意識を手放していた。



- - - - -


「………!!!」

ガバッと勢い良く起き上がると、そこは和室の一室だった。畳の匂いが鼻を掠める。部屋は全体的に薄暗くなっていて、窓の外を見ると日が暮れているのが分かった。顔が青ざめて行くのを感じる。

ーやってしまった…!

頭をかかえて悶絶する。炎司さんが運んでくれたのだろうか。まじで迷惑しかかけてない、最悪だ。せめて何か手伝わなければと思い、布団を整えて部屋を出ると、長い廊下が目の前に現れ途方にくれた。

でもこの家を訪れたのは初めてじゃない。大丈夫、思い出せる。私は意を決して部屋を出た。

10分後、私は未だ轟家を彷徨っていた。もはや最初の部屋がどこかも分からない。全ての戸が閉まっていて、部屋全てをむやみやたらと開けて周る訳にもいかず、こんなことなら部屋から出なければよかったと後悔する。