月夜
月が、炯々としている。浮かび上がった、白い肌。摩れる其れは、布。絡んだ指は、強い。息は熱く、声は出なかった。
「時恵。」
耳に籠る、熱い息。熱い舌を伸ばすと、時恵の身体は微かに跳ねた。
「怖いか。」
「…いいえ。」
笑った顔は、何処かで見た像。石膏で出来た、赤子を抱く母の像に見える。頬に唇を落とし、指で反対の首筋を撫でた。乗し掛かる龍太郎の重みに、時恵は幸福を感じ、息を吐いた。
「嗚呼、龍太郎様。」
漏れた声。其の声が愛おしい。
ゆっくりと指を下ろし、肩を撫でた。肩に力が入り浮き上がった鎖骨、そして其の窪み。頬から唇を放し窪みに舌を這わした。ぬるりと這う熱い舌に息が漏れる。噛み付きたくなる様な、細い首。
全てが龍太郎を誘った。
首に唇を落とし、指は更に下へ行き、溜息とも取れる声を時恵は漏らした。龍太郎の手が、女性特有の膨らみに触れ様とした時、時恵の手が重なった。
「…止め様か。」
「…いえ、あの…」
矢張り怖いのか、其の手は微かに震えている。
「嫌わ無いで下さいませね…」
「如何した。」
「ワタクシ、胸が、大きくて。其れで。そのう…」
龍太郎は少し笑い、あやす様に口付けをした。
「そんな事で、俺は嫌わんさ。」
「其れに。」
優しく、髪を撫でた。
「無理をするな。」
今直ぐにでも抱いてしまいたいのに、こうも怯える時恵を見るとそう急がないと笑うしか他無く、再度口付けをした。色々云って居るのは、恐怖や不安からか、拒む為か、其れは龍太郎には判らない。此の洞察力、好いている女には余り効かない様だ。
「違うんですの。ワタクシ…嗚呼嫌ですわ。恥ずかしい…」
赤い顔を半分手で隠し、何か云いた気に時恵は首を振る。龍太郎の柔らかい目に喉を一度鳴らし、呟いた。小さく。
「初めて、ですの。」
夜這いの習慣を知らない訳ではないのだが、何せ時恵は令嬢である。子が出来ぬのなら、せめて生娘で嫁がせ様と父親の思いは強かった。例え処女で嫁ぐにしても、嫁ぐ前夜やらに母親が娘に其れを教えるものだが、生憎其れを教えてくれる母親が存在しない。かと云って、第二夫人が教える訳にもいかない。結果時恵は性の知識も何も蓄えず、本当に父親の思い通りに嫁いでしまった。
龍太郎は其の言葉に呆け、まさか本当に生娘で来るとは、見た目其の侭本当に綺麗な御嬢さんだと声を殺して笑った。龍太郎の其の態度に、嗚呼矢張り父の思い等尊重しなければ良かったと時恵は目を伏せた。
「失敬。」
微かに唇同士を付け、優しく囁いた。
「優しく、大事に、扱わんとな。」
月光が龍太郎の綺麗な顔を更に美しく魅せた。切れ長の吊り上がった狼の様な目。初めて会った在の時の様に烱々としていた。ぞくりとした。
欲しい。そう、素直に思った。
時恵の手が離れ、其の侭、ゆっくり膨らみに乗せた。軽く動かすと恥らう様な声が上がった。其の声と柔らかさに、行動が思考に付いてゆかない。頭では静止を促すが、手は勝手に膨らみを愛撫した。互いの息は荒くなり、我慢が利かない。荒く掴んだ時、龍太郎は口を大きく開き、時恵の口を塞いだ。
獣。
餓し狼。
くぐもった声は、充分に、龍太郎を獣に変えた。暇を持て余した右手で髪を撫でた。其れは、逃げ様とする時恵を束縛する為か否か。最早、龍太郎自身、判っていなかった。胸から手を放し、下へ下へと進め、腰の線をなぞった。
時恵の眉間に皺が寄ったのを、龍太郎は見逃しはしなかった。
口を放し、頭も下へやり、胸の中心に平たく舌を這わせた。
高い声。
自分の声とは思えず、時恵は口を塞いだ。龍太郎の舌が動けば動く程、手に力が入った。細い腰に手をやり、舌を動かす龍太郎に、支配される快感を時恵は感じた。
逃げるな。
そう云われている様で、軽く噛まれた時、口から手が離れた。
龍太郎は顔を上げ、優しく口付けし、腰を掴んでいた手を更に下へとやった。指が股を掠めた。
びくり。
時恵の身体が大きく揺れた。
「……怖い、か。」
「す、少し。」
申し訳無さそうに時恵は吐いた。其の姿に龍太郎迄同じ気持になる。如何したものかと頭から手を放し、時恵の手に重ねた。
「握って。俺の目を見ておけ。」
強くも優しくもある龍太郎の目に頷いた。
時恵の、艶の掛かった目と、潤いを帯びた秘部に、龍太郎の目が、更に光った。
然し如何した事か、充分に濡れている筈であるのに第一関節の半分にも満たない処で時恵は苦痛の顔をした。口を塞ぎ、集中を拡散させ様としたが中々入らず、龍太郎の眉間にも皺が寄った。
「狭いな…」
吐かれた言葉に謝る事しか出来ず、時恵は自分を呪った。此れだから生娘は、と云われた気分だった。本当は痛い痛いと喚きたいのだが、喚けば夫の興が削げる。下唇を強く噛み締める事しか、女の時恵には出来ないのだ。
「こら…傷が付いてしまう。」
歯で押し潰された唇に龍太郎は触れ、離す様云う。血が滲んでしない事に安堵した龍太郎は、優しく笑った。
「少し、慣らすか。」
そう呟くと、龍太郎は時恵の視界から消えた。
「龍っ…龍太郎様…っ?」
腹にキッスをされ、思わず声が裏返る。自分が何をされ、そして夫が何をしているのか、困惑した。膝が立てられ、悲鳴を漏らそうとしたのだが、出たのは甘い声だった。
暖かい舌が内股をなぞり、這い、其れに秘部が反応を見る。知った感覚に我慢しろと云う方が難しく、目が虚ろになってきた。龍太郎が心配した唇は半開きの状態だった。
「龍太郎、様…」
経験が無い訳ではないが多い訳でもないが、実際龍太郎は、秘部への直接的な愛撫をした事が無かった。此れで良いのだろうかと思いつつ舌を動かす。其れでも声を漏らし、反応を見せてくれる時恵が愛しく、嬉しかった。
女の匂いは男を狂わすというか、如何云う原理でこうなるのかは理解出来ないが、頭がぼうとするのだけは理解出来た。
限界だった。熱を帯びた自身が強く脈打ち、痛ささえ感じ始める。龍太郎は其れに微かな恐怖を覚えた。此の慾で時恵を汚すのだと。然し其の恐怖も又、龍太郎には快楽であると云え様。夢遊病者の様に快楽の中を歩いた。
龍太郎と同じ様に時恵も其の中を歩き、ふと出会った其の顔は、矢張り、美しかった。
欲している。
好いた男が全身で自分を欲している。嬉しくて仕様が無かった。
「龍太郎、様…」
自分でも不思議だった。知識も何も無い筈なのに確かに時恵は自ら足を開き、龍太郎の受け入れた。
「時恵。」
開かれた身体に喉が鳴り、妖婦の艶に引き込まれた。
熱い塊。
火傷しそうだった。
「痛いと喚いても、止められそうに無い。」
「来て、来て下さいませ。」
異物感と痛み、そして快楽。其の三つが巨大な一つの空間を作り、二人して放り出された。
唯、唯求めた。
欲した。
快楽が、欲しいと。
従った。
本能に。
成り下がった。
獣に。
もっと、もっと欲しい。
奥に、深く、もっと深く。
月が、恐ろしく奇麗に見えた。
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