俗と煩悩
ごつりと鳴るのに紛れるブーツの音は、嫌に高かった。
「此れは此れは、陸軍さんではありませんか。」
響く靴音に視線を遣り、笑う馨。
「帝國陸軍元帥、木島和臣だ。」
電話越しに聞いた声が、今まさに耳元に広がる。小さくハロルドは笑い、和臣に身体を向けた。
「やあ。」
想像を超えた修羅の顔、畜生と呼ばれる男。成程、馨との存在感が圧倒的に違う。深く息を吸えば、血生臭さが鼻を突きそうで、故、誰からも好かれない。
気高い、孤高の修羅。
「木島元帥…。御会い、したかった…」
手を握り、膝を突くハロルドに上から降る見下した含み笑い。
「心にも無い事を、…ヘンリー。」
「本心だよ、和臣。」
鬼の哀れな其の面を、一度此の目で見たかった。にやりと口角を上げ、冷たい目を向けた。
役者は揃った。後は台本通りに進めるだけである。世界と云う舞台で。
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