帰国命令
光に透け、とても奇麗な色を見出すハンスの髪。私は其れに手を伸ばし、そっと触れた。光の加減で、金にも銀にも、白にも見える其の髪。
私は其れが好きだった。
「毟り取らないで呉れよ。」
笑うハンスに、私も笑った。
「ハンスの髪は、本当に奇麗だね。」
「トキイツも、奇麗さ。緑の黒髪、良いね。」
恋人との関係を終わらせた私は、其の後何度か女と身体を重ね、時折ハンスとも関係をして居た。我乍ら不純だとは思う。けれど、悪い事とは思わなかった。
貞操観念?そんな物は知らない。本能の赴く侭に生きる。
其れ程私は、変わって仕舞ったのだ。
だって、数分後の未来さえ確かでは無い。生きるか死ぬか、殺すか殺されるか、支配するかされるか。何方かしかない未来、そんな状況で理性等邪魔でしか無かった。
「時一。」
名前を呼ばれ、私は腰を上げた。
「其れじゃあ、又ね、ハンス。」
「欲しい物があったら、持って来るけど。」
ペンを持つハンスに答えず、微笑んだ。
欲しい物は何も無い、考え付かない、本当に欲しい物は手に出来無い。此の手軽さがあれば、私は何も要らない。
「俺はあるよ。」
「何?」
欠伸し乍ら宗一は云う。
「米が切れた。後、醤油。」
「好い加減、日本食は忘れろよ。」
「忘れられたら、良いんだけどな。」
寂しそうに微笑む宗一に、私は何も云えない。
「俺が、忘れられないんだよ。シスコンだから。」
「愛しい姉君を、思って居るのか?」
「まあね。」
笑い、伸び掛けた髪を靡かせた。腕を引かれ、宗一かと思いきや、其れはハンスで、唇を付けられた。
「Tschues,Mein Prinz.」
離れた唇と言葉に笑った。
ハンスと関係を持ち、知った。在の見た目からは想像出来無いが、彼は女役だった。其れはかなりの衝撃を私に教えたが、もっと酷い衝撃は、男役も出来る自分にだった。可愛い可愛いと宗一に愛でられて居た在の時は、二度と戻らない。本当に欲しい物は、自ら捨てた。ぐちゃぐちゃに握り潰し、汚れたブーツで踏んだ。
「まあ、良いか。」
「ん?」
「何でも。」
一時は、愛した人の思う様に生きれたのだから、良い。
其の思い出を包む様に、宗一の手を握った。
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