日記帳


日記を閉じ、木島は息を吐いた。紫煙を上げ、目を瞑る。目頭を擦り、棚に手を伸ばし一冊の日記帳を取り出した。同じ様に色褪せた其れを捲り、日記に変わりに張った新聞記事を指でなぞった。使用人が、雇い主の息子を撲殺したという記事。
木島は舌打ちをすると日記帳を閉じ、乱暴に戻した。
執念だ。在の使用人にも、木島にも、同じ執念が存在した。形は違うが、確かに此の手に現実を掴んだ。
「先生。」
ドアーがノックされ、木島は驚いた顔で振り向いた。其の顔に龍太郎は驚き、小さく頭を下げた。
「御邪魔でしたか。失礼を。」
「構わんよ。」
自分に似た眼を木島は見据え、背を向けた。
「私が居ない間、時恵を見て頂いて。」
「何、夫のが不在の間、何かと心細いだろうと思ってな。」
「有難う御座居ます。又、御願いしても。」
「嗚呼、構わんよ。」
もう一度龍太郎は頭を下げ、静かにドアーを閉めた。遠退く靴音に木島は息を吐き、椅子に深く凭れた。
「陸軍中尉と、首相の娘、か。」
鼻で笑った。
開けた窓から風が入り、楽しそうな二人の声と、其れ以外の声も聞こえた。木島は立ち上がり、其の光景を見た。其れは木島に、幸福の溜息を漏らさせた。




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