同じ日に


未だ、辺りがぼんやりと暗い。白々と明けてゆく夜を龍太郎は眺め、軍服に腕を通す。
同時間、井上も又、目を覚ました。横に感じる体温に、視線を遣り、其の頬に唇を落とした。
「朝だぜ。」
其の声に、横で寝ていた女は目を開け、体を起こした。
「旦那、帰らなかったの。」
紫煙を上げ、身支度をする井上。
「嗚呼、寝てた。」
「珍しい事もあるのね。」
「おいおい、俺だって寝るよ。」
「そうじゃなくて。」
女の手が、井上の顎に伸びる。
「余程疲れてたんだね。女の横で、容易くなるなんてさ。」
「そら、良い女が横で寝てたら、俺だって寝るさ。」
「嘘御吐き。人一倍神経張り巡らしてる癖に。」
井上は笑い、灰を落とした。
何とも、良い匂いがする。龍太郎は新聞に目を通し乍ら其の匂いを感じていた。
「今日も、旨そうな鮭だな。」
見ずに答えるが、龍太郎にははっきりと判っていた。其の匂いが、好物の鮭だという事が。
「龍太郎様は、本当に鮭が御好きなのだから。」
「時恵も、好きさ。」
「まあ。」
楽しそうな声が、響いた。
「旦那、今度は何時来てくれるの。」
「そうだな、気が向いたら。」
「次は私だからね。」
「はいはい。皆纏めて、可愛がってやるよ。」
黄色い声を聞き、ドアーを開けた。
「行ってらっしゃいませ。」

――嗚呼、行って来るよ。

其の声を後ろで聞き、痛い程差し込む朝日を睨んだ。二人は其れを見、足を其の下に向けた。
長い髪が、視界に入る。
龍太郎は其れを見逃さず、後ろから帽子を取った。
「…なーにすんだよ。龍太郎様。」
「帽子を取られる程、ぼーとしてる御前が悪い。」
笑い、井上の顔を覗き込む。とても、良い顔をしていた。
「朝から、艶めいた顔して。」
「そういう龍太は、眉間に皺寄ってるなぁ。」
「放っておけ。」
そう笑って、二人は朝日を感じ乍ら、足を速めた。




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