葬列


丸で、蟻の行列みたいだと、時恵は思った。皆して同じ姿をし、ぞろりぞろりと歩く。
黒い塊がゆっくりと蠢いている。
棺は餌、其れに群がる蟻。そんな風に見えて仕様が無い。生きてい様が死んでい様が、木島には群がる。
ひんやりと冷たい無機質な棺は、其の場に似つかわしくない程輝き、光を放っていた。
雨音に重なり鳴り響く雅楽が、時恵の心を無機質に変えていった。そんな時恵の肩を龍太郎は抱き、頭を付けて黒い列を眺めた。
ばたばたと大粒の雨が音を出す。雨があるから誰も涙を流さないんだと時恵は思い、強い目を棺に向けていた。
雨音を消す様な喚き立つ葬列者の声。其れを一身に集める姿に宗一の眉間に皺が寄った。
「彼奴…」
死に床には姿を現さなかった癖に、こんな場所には陸軍元帥として姿を現す和臣に苛立ちを見せた。此れがせめて、息子としてなら文句は無かった。
「行って来るよ。」
和臣の姿に龍太郎は微笑み掛け、持って居た傘を時恵に渡し雨の中足を進めた。不安に苛まれない様、肩が濡れて行く様をじっと見ていた。そうして握られた手。
「僕が、付いています。」
時一の柔らかい笑みに時恵も少し顔を崩した。
耳を裂く様な和臣の声。
「一同、敬礼っ。」
微塵の狂いも無く揃った敬礼、鳴り響く雅楽、煩い雨の音、時一の体温、震える自分の身体。
蹄の音が、時恵の身体を、嗤った。
「嗚呼っ。」
一層激しくなった雨音と蹄の音に、時恵の叫び声は掻き消された。
「父上っ…父上っ。」
しゃがみ、跳ねる泥水が時恵に掛かる。
「姉上、御気を確かに。」
「父上…父上…。行かないで下さいませ…」
嗚咽を漏らし、雨なのか涙なのか判らない雫を落とす。遠くに見える其の姿に、和臣の身体が揺れた。
「然様なら、父さん。」
鍔から雫が落ち、和臣の頬を伝う。涙と混ざり、顎から落ちた。喉の奥が熱くなり、口元を震わす。
微かに震えていた、しかし誰も気付きはしなかった其の敬礼をする腕が、大きく震え出し、強く握られた。
「父さんっ父さんっ。御免、御免。こんな息子で…御免……っ」
丸で、空から落ちてくる粒の圧力に負けた様に、和臣は膝を付いた。
「元帥っ。」
「父さん。行かないでくれ…」
崩れた和臣の姿に宗一の目が灰色の景色に浮いた。
「なんや、未だ、心は、あったんやないの。」
呟いた宗一の手が動き、綺麗な敬礼を作った。
「御疲れさん。親…、………おとん。」
真直ぐ向き、気丈の目を向けた。
誰よりも木島を憎んでいる筈なのに、そんな人間に敬礼をし、父と認めるのがどんなに辛いだろうか。宗一の心中に、我慢していた涙が一気に溢れ出、時一は時恵の身体を抱き締めた。
「姉上…っ」
「…ええ。最後だものね。」
濡れた顔を歪ませ、時一に支えられ乍ら時恵は立ち上がった。
「偉大なる父上に。」
「敬礼。」
全ての音が、美しい旋律を奏でた。
龍太郎の口元が歪む。其れを拓也は見逃さなかった。
「楽シイカ。」
掠れた声。
其れは、拓也の声とは思えない程掠れていた。そう、木島の声に似ていた。
「エエ――至極。」
思い出す獣。
「忘れません。貴方の事は。時恵が傍に、居る限り。」
世界が、変わる。




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