独裁者
廊下に、靴音が響く。其の後ろから、小走り気味に付いてゆく男の靴音も響く。
木島が居なくなった今首相は変わり、同時に、木島の生き写しの様な和臣に反論する力は無かった。
木島が死に、未だ四十九日も過ぎて居ない頃、其の着任した首相は容易く引き摺り下ろされ陸軍中将を首相に、陸軍の政府弾圧が始まった。軍予算を大幅に増やし、反発を見せる議員の給料を剥奪した。
海軍元帥は海軍元帥で、予期せぬ増えた予算で軍艦を増やし、海軍学校を立て直し、軍港を整備し、結果問題は無いので反発は無い。もっとやれとは云わないが、満足は見せて居た。しかし極力関わら無い様努めた。
独裁者。
誰かがそう云った。
帝國陸軍元帥、木島和臣。誰も其の存在には逆らえ無かった。唯一口を出せるのは陛下、其の方だった。
其の陛下も今や和臣に揺れ動かされている。後一息。
其の一息が出来ず、隠せない苛立ちは靴音に反映して居た。
「元帥殿に、敬礼。」
其の声と共に、見渡す限りの人間が敬礼を為す。其の快感は和臣を震え上がらせ、修羅が笑う。
「諸君。我が国家は、大戦に向け、始動をする。」
力強い地を揺るがす轟きの中、龍太郎は一人溜息を吐いた。
等々、始まってしまう。
木島が死んで一ヶ月もしない内に一瞬で変わった現状に、此の先を考えた。
そんな龍太郎を拓也は見詰め、息を吐く。
「今に、大戦が始まる訳じゃねぇ。」
「判っている。」
中国と戦争をし、大戦迄に力を付けるという和臣の思想。
大戦大戦と和臣は繰り返すが、一体何処からそんな情報が来て居るのか、或いは和臣が仕掛ける話なのか、全く先の見えない話に二人は息を吐き、従う他無かった。
「抑大戦とは、相手は何処だ。」
「ソヴィエト…?中国は…、今からだしなぁ。」
「鎖国してた方が日本は良かったかもな。丁髷で刀挿して、侍の方が未だ増しだな。」
「違いねぇ。」
大衆を煽る和臣を睨み付け、其の視線に気付いた和臣は、楽しそうに顔を歪ませた。
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