独裁者
和臣の靴音さながら、龍太郎達の靴音も、苛立ちが篭っていた。どかりと椅子に座り、在の窮屈な空気を払い除ける様に襟の詰めを外した。同時に息を吐き、紫煙を上げ、陽気な日差しに和臣の言葉は不釣り合いで腹が立った。
「何を考えているんだ、在の独裁者は。」
選りに選って和臣が提示した大戦の相手国は亜米利加。在の大国を潰さずして日本の繁栄は無い云々。思い出せば思い出す程二人の腸は煮え繰り返る。
「在の畜生…、打ん殴りてぇ…」
亜米利加相手に勝つ筈が無いと、怒りの感情が乏しい拓也でも手を震わせ怒り狂って居た。
「嗚呼もう、殴り殺したい勢いだ。」
其れが日本の為だと、龍太郎は息を吐いた。
「大戦は何時だ。」
「此の侭行けば五年後、確実にな。在の偉い偉い木島元帥様々の御話に依れば。」
「五年で在の大国相手に力付けろ等、無理な話だ。しかも相手は中国だろう?」
「中国ねぇ…。何、彼奴等強ぇの。」
中国の武力も判らず脱力し、紫煙を上げた。椅子を揺らし、天井を仰ぐ。ぐらぐら揺れる頭で考えるのは、何故か和臣の事であった。
「戦下に、自分の子供を産み落とすのか、木島さんは。」
龍太郎の呟きに拓也は驚き、消していた煙草から手を離した。
「は?何、彼奴子供居んの?何時出来たのよ。」
「…知らないのか?結婚した理由は其れだぞ。」
「うっわ、格好悪ぃ…。いや、昔から格好悪いだらし無い男だったけどよ。うわ…引くわ…。だって、相手…娼婦だろうよ…」
「まあ、木島さんの人生だから知った事では無いがな。」
拓也は益々息を吐き、頭を抱えた。
「良く先生は許可したな…」
「先生は、身分等、関係無い方だったからな。」
特に色事が絡んだ時は。
思い出す木島の姿に言葉が自然と消え、そうして同時に舌打ちをした。
和臣に対しての怒りが収まらない。良くも此処迄、容易く木島の思いを裏切れたなと。最後迄味方で居たのは木島一人では無かったか。和臣が結婚し、木島家の安泰を知った安心感で木島は死んだ。
其れなのに。
咥えて居た煙草を噛み締め、龍太郎は歯軋りをした。
「此れは…先生への…冒涜だ…」
「反戦者は、例え父親でも邪魔ってか…。酷ぇ野郎だぜ。」
「独裁者何て、生優しいな。木島さんは阿修羅に近い。」
和臣の信念全てが、例え正義であったとしても、其れに固執し続けると善心を見失い、妄執の悪となる。そして、周りと戦う事が全てになる。
人間でも神でも無い、修羅道に堕ちた血も涙も無い哀れな姿。
今の和臣と木島は、帝釈天と阿修羅に龍太郎は思えた。
「修羅、ね。」
ふへ、と在の独特な笑い声に龍太郎ははっとし、視線を向けた。
「本物の修羅は、もっと恐ろしいぞ。」
含み笑う拓也に龍太郎は身震いを起こした。そう詰まり、もっと酷くなる事を指す。
「鬼様修羅様木島様ってね。」
何れそう謳われ始める。そう思うと龍太郎は吐き気がしてならなかった。
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