出国


入り切りか疑わしかったが、意外と持ち物は少なく、其の余った隙間に何を詰めるか考えた。入れず軽い侭行っても良いのだけれど、如何せなら、荷物一杯にしてやりたかった。着の身着の侭、そんな言葉より、詰め込んだトランク、の方が良かった。
そんな中、彼は何を持って行くのだろうと考えた。
開いたトランクに、投げ入れた侭になっている必要品。溢れてはいるが、きちんとすれば、自分より余程余裕がある。
「白衣に、着物に、此れ何。」
必要最低限にしか揃えられていない荷物。向こうに行けば、幾らでもある事を知る。
「荷物多いな。時一。」
後ろから聞こえた声に、慌て彼のトランクを閉めた。何故閉めたかは判らない。寧ろ、閉まった、と云う方が正しいのか、指が挟まり、痛さに震えた。
「何してんの。」
呆れを混ぜた溜息に、情けなさが出る。
「勝手に済みません。」
「良いよ。見られて困るのは…」
云って思い出したのか、彼は慌ててトランクを抱えた。
「…見た…?」
「…いいえ。何も。」
見てはいない。だが、今は無性に見たい。
「見せて下さい。」
そう笑ったのが怖かったのか、彼は首を振り、力を込めた。
「駄目。」
「宗一さん。」
「いや本当に。勘弁して頂戴よ。」
互いに諦め悪いのは充分承知している。そうして彼を困らせる事が、楽しくて仕様が無い。
「怒りませんから。」
そうは云ったが、内容に依っては怒る。
「何も、無いのよ。本当よ。」
「何を今更。だったら尚の事。見せて下さい。」
「いや、ほんに堪忍。頼むわぁ。」
同じ会話を数回繰り返し、等々彼は観念した様子で、視線を合わせずトランクを差し出した。漁り、出て来た物に、眉を上げた。
「へえ。既に浮気ですか。」
一枚の写真。目鼻立ちの綺麗な、日本人では無い誰か。薄さからして金色を思わせる髪。こちらを向かず、下を向いた横顔の写真は、盗撮を臭わせた。
「ほら、ね。云うと思った。」
彼は息を吐き、取り返えそうとしたが、僕は其れを許さ無かった。
「素敵な殿方ですねぇ。」
「そうでしょう、そうでしょう。だから返して。」
「兄上。」
写真を彼の胸元に押さえ付け、眉を上げた侭笑う。きっと酷く悪どい顔に違いない。証拠に彼は引き攣っている。
「別に此れ以上追求する気はありません。ですが。」
安堵の息を漏らした彼だが、続いて聞こえた声に身震いを起こした。
「浮気をされました場合には、出来ぬ様ちょん切りますから。」
指を鋏の形にして動かす。深く項垂れ、其の光景を考えただけで泣く彼。
嬶天下。
誰かがそう云っていました。




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