大英帝国
呼ばれた時から、嫌な予感はしていていた。馬鹿な事でも口走ろうものなら馬鹿に仕返してやろうと考えて居たのだが、目の前で其の不敵な笑みを向けられると、顔を逸らし、頷く事しか出来ない。
「なぁ、井上。」
紫煙を上げ、笑う和臣。今にも舌打ちをしそうな拓也。犬猿の中、とは二人の事を指すのだろうと、大佐は二人の間を見ていた。
「調べた所に依ると、御前の父親、外務省長だったらしいな。」
「さあ。私が物心付いた時には、既に姉と二人でしたから、存じません。」
「御前、日本語以外に、何が話せる。」
詰まらぬ質問だと、拓也は息を吐いた。用件があるのなら早く云って貰いたい。そんな意味合いを込めた溜息は、和臣にも然りと判った。
「では、用件を云おう。」
立ち上がり、窓を見、拓也に背を向けた。
「御前には、来週より一年間、英吉利に行って貰う。」
表情の見えない和臣に、拓也は顔を顰めた。
「何だって?」
聞き直した拓也に、和臣は鼻で笑った。
「頭が悪いのか、耳が悪いのか、どっちだ。」
「強いて云えば、性格かな。」
互いに無言で、其れを楽しんだ。
「貴様に、拒否権は無い。」
判っているだろうが、と和臣は念を押す。拓也は息を吐き、頭を下げた。
「俺が居ない間、俺の部隊は如何なるんだ。」
其の問いに和臣は無言で笑い、行って良しと、蝋燭を消す様に手を振った。
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