大英帝国


何の前触れも無く、苦笑う拓也の口から聞こえた英吉利行きに、龍太郎の口から煙草が落ちた。床に落ち、少しばかり火を飛ばし、紫煙を上げる。
困惑する龍太郎に、拓也は笑い、煙草を拾い上げ、灰皿に落とした。
「何、直ぐ帰ってくるわ。」
「直ぐって、一年だぞ。」
「あっという間だって。」
泣きそうな顔をする龍太郎に、何も云えず俯いた。
ずっと、一緒に居た。
ずっと、傍に居た。
離れた事なんて、無かった。
不安が、身体を裂く。
来週には、馬鹿な話で一緒に笑えなくなる。異国の地で、一体如何して生きてゆこう。
しかし。
一人の自分には御似合いだと、拓也は紫煙を上げた。
「俺が帰って来る迄、良い子で待って為さい。」
龍太郎の頭を鷲掴み、髪を乱した。止めろと云う龍太郎を見、俯く。
「拓也?」
「なぁ、頼みがあるんだ。」
俯いた侭云う拓也に、泣いているのかと顔を覗き込もうとしたが、顔を掴まれ其れは出来なかった。
「姉さんの事、頼むな。」
俺が居ない間、と拓也は顔を上げ、焦点の定まらぬ目で窓を見た。




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