大英帝国
抑、何故自分は英吉利に送られたのだろう。其処からして気になる。在の時、理由は聞けず流された。役に立つなら理由は判るが渡英し早三ヶ月、別に自分で無くても良かったんじゃないかと思い始めた。と考え在の和臣の事。
「此れが本当の島流し。うは、寒い。」
云って情けなくなった。
「ん?如何しました?ミスター。」
「いや、何でも無い。」
母国語で自嘲した為、ハロルドには伝わっていない。理解出来ない言葉を、常用語で説明した処で伝わりそうには無い。先ず、島流しと云う言葉から教えなければいけない。
「そうですか?ミスターが笑われる等そうありませんからね。余程手紙に何か書かれていたのかと。」
拓也の持つ手紙を差し、笑う。
「あー、いや。此れには特に。」
和臣からの任務。此れ程、糞が付く程楽しく無い手紙は無い。破り捨てたい心を無にし、机に放置して於けば五十嵐が如何にかする。帰る頃には、書物でも出来そうだ。
題は。
そう例えば、木島元帥の輝かしき独裁功績。
「…止めゐ…。」
自分で云っておいて、寒気が走る。
一人漫才の様な拓也にハロルドはくすりと笑う。
「ミスターの元帥は、どんな方ですか?」
和臣の事を考えていた為か、其れが伝わる。嬉しくも無い話だが。
どんな、と聞かれても、云う事が無い。唯。
「恐ろしく変態。」
「あっはっはっはっ」
無表情で云う拓也に豪快に笑い、腹を抱えるハロルド。
「元帥をそんな風に云っては。」
「だって、事実だもん。」
机に顎を乗せ、唇を尖らせる拓也。自分に聞くより、和臣崇拝者の五十嵐に聞けば良いのにと思う。
数ヶ月前の、在の開戦演説を思い出す。目を閉じれば聞こえる。拍手喝采、地を揺るがす歓声が耳を支配する。
そして。
「龍太…。畜生…会いてぇ。」
思い出すは吊り上がる目。
「リュウ、タ…?」
何とも無気力なハロルドの目。拓也は慌てて首を振る。
「いや、俺はそっちじゃないから。女専門。」
「ブロンドの私で宜しいなら、御相手しますのに。」
「違うって…」
何が悲しくて、異国の地で男の尻相手をしなければいけないのか。幾ら御無沙汰だからと云って、其の地に落ちる訳にはいかない。
「なあ、ヘンリー。」
背に腹は変えられない。
三日と空けず娼館に通い詰めていた拓也。忙しく其れ処では無かったが、やっと要領が掴め、余裕も出来て来た。そうして、余裕と一緒に。
「もう、ブロンドで良いよ。金髪美女。」
「…未だ、心の準備が…」
「…女を準備してくれれば、心の準備は要らねえよ。出来れば尻のでかい奴。」
「嗚呼、良かった。私、誰もが羨む小尻で…」
本気で安堵するハロルド。そっちの人間で無いのなら、云わなければ良いのに等と思う。
「もし俺がそっちの人間だったら、如何する積もりだったんだよ。」
意地悪く笑う拓也。
「其の時は…」
立ち上がり、拓也の机に手を置き、顔を覗き込む。海の様な其の目、其れを隠す日影の様な髪に拓也は息を飲んだ。
「君が女役になるだけさ。」
くすりと笑う息が掛かる。
「うん?」
聞き間違いかと、首を振る。
「生憎私は、男役でして。」
放心する拓也に、ハロルドは楽しそうに笑い、そっと離れた。
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