大英帝国


雨ばかり降る。雨が嫌いなのに、何故こんな事になっているのだろうか。御蔭で頭痛は酷くなる一方で、其れに加え、理解不能な任務も拓也の頭を痛ます原因であった。和臣を呪っても呪い切れず、唯早く、一年過ぎる事を願った。
「ミスター。」
呼ばれた声に振り返ると、女みたく奇麗な顔をした、憎たらしい程光り輝く腰迄伸びるブロンドヘアを揺らす男が笑っていた。
名前は、ハロルド・ベイリー。拓也と同い年と若いが、既に元帥の右腕と並ぶ陸軍屈指の実力者である。
大きな目は緑色で、頭の回転と同じ様にくるくる回る。
「ハロルド。元気か?」
「ヘンリーで構わないと。」
何故ハロルドがヘンリーに称させるのか、日本人の拓也には理解し難い事だったが、其れがそうなのだろうと、深くは考えなかった。
「其れはそうと、ミスター。」
緑と灰色の混ざる海の様な目が拓也を捕らえ、そして又、闇の様な漆黒の拓也の目がハロルドを捕らえた。
「此方に来て約二ヶ月が経ちますが。」
横目で笑う。其の目元に、厭らしさを少し感じた拓也。
「女性の影を、全く見ないのですが。」
「…女、ね。」
云われてみれば、此処二ヶ月、女という生き物を見ていない。毎日見るのは男。部下も男なら、家に居る手伝いも男。むさ苦しい以外の何ものでもない。華が無い。
「雨よりも、頭痛の原因は、其れかと存じます。」
「云ってくれるじゃねぇの。」
嫌な雨音を通す窓にカーテンを流した。
「生憎俺は、黒髪以外、興味ないんでね。」
「左様で。」
困った様にハロルドは笑い、手を前に出し掌を見せる。
「ミスターの様な黒髪、と迄は参りませんが、其れに近い御色でしたら御用意出来ますが。」
何とか機嫌を直そうとするハロルドに拓也は溜息を吐き、首を振った。
「良いよ、もう。気にすんな。」
足を速め前を歩き、手を振る。靴音が雨音に緩やかに重なった。




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