子供
耳を裂く轟音。夢の中なのに、妙に現実味があった。びくりと身体が跳ね、目が覚めた。
首に触る体温。細い腕で身体を包まれていた。
「雪、子。」
其の声に雪子は微笑み、髪を撫でた。
「御目覚めかしら。」
「どれ程、寝ていた。」
「そうね。小一時間かしら。」
時計を見、笑う雪子。
懐かしい。
前にも同じ事があった気がする。其れは気の所為で無く、現実だった。
「覚えておいでかしら。初めて会った日も、こうして貴方の事を抱き締めていた。」
「そう云えば、そうだったな。」
思い出し、雪子の身体を抱き締める。
考えてみれば、運命とは面白い物で、何の接点も無かった二人が、こうして肌を重ねている。娼婦になり、娼婦の侭で終わる筈だった人生が、こうも変わる。
娼婦になった日、初めての客として和臣が付いた日、偶然とは、結果に到達する迄の必然要素らしい。
「幸せ過ぎて、怖い。」
雪子の声に、和臣は顔を上げた。
「怖い、か。」
「ええ。」
頷き、抱き締める。
「如何して貴方は、私を娶ってくれたの。」
其の問いに、和臣は目を開き、首を傾げた。
「私は娼婦よ。子が出来ても、放って置けば良かったのに。」
「そうだな。でも、其れは考え付かなかった。」
「何故。」
細い雪子の声に、思いが溢れ出る。
「客に惚れたら地獄というが、客が惚れても又、地獄だと思う。」
惚れていた。其の愛らしさに。そうして身体を重ねていく内に、気持が膨らみ、破裂した。醜い独占欲で、大金で、雪子を縛り付けた。
自分以外の客を取らない様に、大金を積み、そうして子が出来た事を良い事に、自分の物にした。
失ったものは多過ぎたけれど。
其れでも良い。
「此の世界があれば、其れで良い。」
「私もよ。」
疎まれ様が、怨まれ様が、如何でも良かった。云って居ろと、鼻で笑ってやる。
〔
*prev|2/2|
next#〕
T-ss