マシュマロ
久し振りに声でも聞いてやろうと、電話を手に取る。そうしてダイヤルを回し、人から人へ、龍太郎に繋がる。
『拓也。』
久し振りに聞いた其の声に、拓也の顔が緩む。
『愛してるぞ。』
「何。何だって?」
挨拶も無く、開口一番に云われ、不審さで心臓が鳴る。皿から、龍太郎に送った奴と同じ物を取り、口に入れる。此れは、ビスケットに挟まり、さくりと音が鳴る。
『御前という男は。何と憎たらしい良い男だ。』
「いや、もう意味が判らないよ。」
余程何かあったのだろうと、紅茶を飲む。其れにも勿論、其れは入っている。
空になった皿にハロルドが新しく作ったのを置いた。
「熱いので、御気を付け下さい。」
小さく頷き、耳を傾ける。
「其れはそうと御前。届いたか。」
拓也の言葉に龍太郎は大きく頷き、持っていた其れを眺めた。
『素晴らしい。カステヰラやチヨコレヰトに匹敵するぞ。寧ろ上。』
「其れは良かった。」
嬉しそうにカップに口を付けた侭、笑う。
「旨いだろう。」
『嗚呼。もう無いが。』
「ごはっ。」
其の発言に咳が出、紅茶が零れる。好きだ好きだとは思っていたが、自分が一ヶ月で食べた量を、何時着いたか判らないが、既に食べ終ったという。好物に至っては底無しという事が良く判る。
「御前。吐くぞ。そんなに食ったら。」
『吐かなかったぞ。』
もっとくれと、尾を振る姿が目に浮かぶ。
「でもさ、良くそんなに食えるな。御前猫舌の癖に。」
『え…?』
拓也の言葉に、不安な声が返って来る。
「え、って。其れ、熱して食うんだぞ。」
『何っ?』
其の侭食べたのかと呆れ、髪を掻き上げる。しかし。
「いや、一寸待て。」
拓也の為に、次に出す其れを作っているハロルドに聞いた。軍服とエプロンは、不釣合いで笑える。
「なあ、マシュマロって、其の侭食っても平気か。」
何を云っているんだ此の人は、と言わんばかりの顔。
「さあ。其の侭食べるのは聞いた事ありませんが、加熱してありますし、人体に害は無いんじゃないでしょうか。」
其の言葉を聞き、安堵の息を漏らす。
「人体に害は無いって。良かったな。」
『良かった…』
危うく死ぬ所だったと龍太郎は同じ様に息を吐いた。
『そうか。熱を加えて食べるものなのか。』
「嗚呼。其の侭食うって方が、俺は驚いたね。」
しかし、試せといっても、龍太郎の手元には物がもう無い。
「又送ってやるから。」
『本当か。今直ぐ送ってくれ。』
「判った判った。」
此れでは狼では無く犬では無いかと拓也は少し口元を歪めた。
「ヘンリー。」
「はい。」
マシュマロを指し、指を動かし持ってくる様云う。
物は試しだ。龍太郎が食した様に、口に入れた。
「おおっ。」
又違った食感と味に、震えた。ふわふわと柔らかく、丸で頼りがいのある綿菓子である。かと云って一瞬では溶けず、何時迄も其の柔らかさを味わえる。
「まさに至高だ…」
『だろう。俺は最初砂糖かと思って珈琲に入れた。』
「嗚呼。俺は紅茶に入れてる。」
何処に居ても離れて居ても、やる事は同じなんだなと、笑えた。そんな嬉しそうな拓也に、ハロルドは微笑んだ。
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