結び目


英吉利に来て半年が過ぎた。
相変わらず同じ事の繰り返し。其れに最近、退屈を覚え始めた。日本に居た時も、此れといって楽しみは無かったが、其れでも退屈を感じた事は無かった。
龍太郎が其処に居る。
其れだけで、拓也には楽しかったのだ。
「なあ、ヘンリー。」
「何でしょう。」
身を乗り出し、煙を吐く。
「俺と、友達に、なんねぇ?」
拓也の言葉に一瞬呆け、書類から目を離し、聞き直した。
「友達。俺、友達欲しいのよ。」
「折角の御誘いですがミスター、其れは出来兼ねます。」
「だよなー。つまんねぇ。」
乗り出した身を引き、背凭れに身体を預けた。
なれないに決まっている。
拓也とハロルドの関係は、仕事仲間、其れ以外は禁止されて居る。
深い関係になって離れるのが辛い事、拓也は身を以って知っている。だからもう、何も云わない。
深く息を吐き、煙草を消した。
「御結婚、為されば其の退屈も、幾分和らぐと思いますが。」
ハロルドの意見に拓也は身を起こした。
「云ってなかったけ。俺、結婚してんだよ。」
「え?そうなんですか?初めて御聞きました。」
しめしめ、騙された、と笑い、背を向ける。
其れにハロルドは違和感を覚えた。
「嘘ですよね。」
「嘘なもんか。」
「いーえ、絶対嘘です。」
「どっから其の確信が来るんだよ。」
「ミスターが此処に来たのは、独身だからと聞きましたが。」
木島か、と舌打ちし、頭を掻く。此れで、拓也の嘘が曝された。意外とあっけない終わり。
「何故そんな嘘を仰るんですか。」
「嘘じゃねぇよ。」
「未だそんな事を。」
「籍が入ってないだけなの。まあ、入れれる相手じゃなかったけど。」
そう寂しく笑う拓也。
「ミスター…」
「其れに、もう、此の世に居ないしな。」
「其れは…」
拓也の顔に、何も云えなくなる。時折、こんな表情をする。寂しさと愛しさが混ざった、アイに支配された顔。
「済みません…」
「良いよ。別に。気持で結婚してるから。」
胸が痛んだ。
何時も感情の無い笑みを浮かべているのは、其の為だと知る。目の笑っていない笑み。
「私も、結婚出来ない相手が居りますから、判ります。籍等、関係無いですよね。」
「そうさ。気持が夫婦なら、其れで良い。」
友人でも、仕事仲間でも無い、二人の間に、違う結び目が生まれる。
其れだけで、充分だった。




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