白
真剣な其の目に僕は如何する事も出来ず、唯、突っ立って居る事しか出来ない。
血に恐怖しない様、慣れ様と思うが、結局我慢出来ず、人知れず吐き戻す。
飛び出た骨、血の海、最悪の場合、顔半分が潰れている死体だったり、臓器が有ったり無かったりする。其れに慣れろと云う周りがおかしいのか、慣れない自分がおかしいのか、もう其れすらも判断出来なく為って居た。
今日は凄くて、二階から落ちた子供が来た。泣き喚き、足の骨が曲がってはいけない方向に変形し、骨は飛び出て居た。骨は血管を突き破り、大量に血を流し、止血さえ間に合わない。そうしていく内に、段々と青白く為ってゆく顔。其れが、とても怖い。
「時一っ」
彼の声に顔を振り、手伝おうと試みるが、結局は何時もの様に役立たずで終わる。此れでは、何の為に独逸に来たか判らない。御荷物以外の何者でも無い。そんな自分に熟々呆れ、反吐が出る。
「向いてないのかな、医者…」
星空を見上げ、呟く。
「向いてない事は、無いと思う。」
聞こえた声に、振り返る。ハンスが笑って、手を振って居た。
横に座り、同じ様に空を見る。今日は一段と星が奇麗だった。
「俺が思うに、トキイツは、血が苦手なんだろう?」
「御恥ずかしい…」
医者に為ろうと云う人間が、血が怖くて如何する。転んで出た血でさえ気持悪いと思うのに、此れこそ無謀と云うもの。
「確かにな。ソウイツは死体の解剖もする。だからまあ、俺等が助かってるんだけどな。彼奴は平気なんだろうが、俺は無理だ。死体でも切るのには抵抗がある。」
考えただけで身震いが起きるとハンスは云うが、生きて居る人間に平気で暴行は加える。
「だからさ、ソウイツとは違う事をすれば良い。何も同じじゃなくて良いだろう?」
「違う事?」
「そ、薬で治す方だよ。気功とか漢方。其れなら、血も見なくて済むだろう?えっと、何て云ったけ…」
咥えていた煙草を僕の口に遣る。其れを一口吸い、考えた。
「東洋医学…?」
「そう、其れ。日本には其れがあるだろう?…中国だったかな…、あれ?」
「…だったら独逸に来た意味が無い…」
中国に行くべきであった。
「嗚呼そうか…、御免…」
益々存在の無意味さを知る。何の為に此処迄来たのか。矢張り素直に日本に帰るべきなのだろうか。僕には医者等、到底無理な話である。
「僕は、何処迄も、宗一の御荷物なんだ…」
膝を抱え、鼻を啜った。情けないやら悔しいやらで、泣かずには居られなかった。
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