兄上、御免遊ばせ
一度達した僕はぐったりとベッドに沈み、足にされる愛撫に小さな悲鳴を繰り返した。小さくて可愛いと、一番気に入る足を咥え、指と指の間に這う舌は気持悪くも気持良かった。
小さな僕の身体は、兄上の下ではすっかり隠れ、肩越しに見える天井の光に目を揺らした。
「兄上、僕も……」
首筋から腕に手を滑らせ、少し険しい顔をする兄上に云った。
「無理やて。自分の口の幅、判てへんの。」
「全部は、無理でしょうけど…」
「止めとき、顎悪なるわ。」
顎を優しく揉む手に闘争心が湧き、絶対してやると躍起になった。
兄上は僕を愛してくれる。僕だって兄上を、自分で出来る事全てで愛して上げたい。其れは迷惑で、我が儘な事だろうかと、所詮僕の自己満足に過ぎないのかと、兄上が首を振る度思う。
「無理と思ったら、直ぐに止めます。…………いけませんか…?」
「あかん事は無いけど…」
「だったら…」
兄上は唸り、首を回した。
「後で、顎痛いとかゆいなや?」
「はい。」
「ほんなら…」
顎先を指で掬われ、其の侭兄上に向かった。軽くキッスをし、ベッドに座る兄上の身体に添って身体を下げた。
最初に如何されて居たかを思い出し、両手で掴んだ。包む積もりが、勢い余り、棒切れを持つ様に鷲掴んでしまった。流石に兄上、此れには吹き出し、僕は真剣であるのに顔を逸らし、口元隠し笑いを堪えて居た。
「笑わないで下さいよ…」
「いや…、だって、な?行き成り鷲掴まれたら、笑う他に無いわ。どないしたらええの。笑い堪えて、見てたらええの?」
「御指導を…、ね?」
「可愛くゆうても駄ぁ目。終い、離してな。」
何故僕は、こうも強情であるか。駄目と云われたら、意地でもしてやりたくなった。
けれど、兄上も中々に強情な男で、強情同士が張り合っても一向に進む訳は無い。仕方無く僕は手を離し、ベッドに座った。
「何時か必ずします。」
「宣戦布告と、取って宜しおすな?」
「ええ。十年後、楽しみにしておいて下さい。」
「ほぉ。ほんなら、楽しみに待ってまひょ。」
何故か其の時兄上は、僕を見て居なかった。僕の方向に目は向いて居るのだけれど、焦点は其の後ろにあった。気になり、振り向こうとしたが腕を引かれ、後ろから抱き締められた。
「あんなぁ時一。」
真直ぐ向いた侭口を動かす。
「さっきから、ずぅっと気になってたんやわ。」
首筋に鼻を付け、キッスを繰り返し乍ら微睡んで居た僕は視線を動かした。映った其れに声が出無い。
「姿見…。…在れ、使おや…」
「……使うって…?」
閉じる僕の足を撫で、又熱を呼び出す。動く手に息が上がり、頭を逸らせた。口を塞がれた侭手の動きに声を漏らし、力の入らなくなった足は自然と開いて行った。
「出して。其れ使うから。」
鼓動と息は上がり、天井がやたら明るく見えた。ぐるぐると景色が回り、嗚呼来る、そう熱く吐いた。
「二回目やからな、早いわ。良かったわ。」
掌に出た其れを指に絡め、ねちねちと音がした。入り込む指に背中が痺れ、開いた足の事等頭に無かった。
「良かった…?」
擦られる時よりもずっと深い快楽が身体の中からゆっくりと噴く。僕の其処は二本の指よりずっと深い強い快楽を欲して居る。
引き抜かれた指に切なさを感じ、荒がる息を恥とも思わず、又欲する事も自然だと兄上の腕を掴んだ。
肩が竦む。掴む腕に力を込め、求める其処を貫く愛に顔を顰めた。
大きく開かれた足を何とも思わず、唯求めた。兄上の膝に手を置き、与えられる振動に合わせて身体を揺らした。もっと奥にと兄上を求めるが、微かに感じる痛みに指先が震える。爪立つ膝には幾度も爪の跡を残し、赤く腫れて居た。
「前、見てみ。」
後ろに反らして居た頭を動かし、薄暗い部屋で不自然な光を持つ鏡を見た。初めて見る兄上を欲して居る自分の姿は、羞恥よりも美しいと云う思いの方が強かった。鏡に映り、兄上に抱かれる自分は確かに自分なのだが、余りにも想像と掛け離れた姿に他人だと思ったのだ。其の姿は厭らしく、けれど愛おしかった。
愛する人をこんなにも求める姿、他には無い美しさだと思った。だから人は、身体を重ねるのだと知った。性欲だけでは無い、感受性の美しさが其処にはあった。
「奇麗やな…」
「兄上も…」
「おおきにな。」
一層膝に爪を立て、息を乱した。鏡を見様と必死に視線を向けるが、快楽の前では兄上を貪る事しか出来無かった。唇を重ね、互いの顔に息を籠めた。
「好きや…。好きや、時一…」
歪む顔には似つかわしく無い言葉を吐き、其の言葉に身体ががくがくと揺れ始めた。兄上の動きに合わせ様とするが身体は勝手に揺れ、膝から手を離し身体を預けた。自分でも煩いと思う程の声は夜に反発し、僕は兄さんの“静かにしてね”を思い出した。
「兄さんが云って居たのは…、嗚呼…こう云う事でしたか………」
「何?」
「いいえ。」
奥に突き刺さった刺激に息を吸い、息を吐く代わりに兄上への熱い愛を出した。
僕は癖で、何時も其れを手に受ける。其れに兄上の温い温度を重ねた。僕より多い其れは、矢張り兄上の方が僕を愛して居るからだと信じた。
汗で肌が張り付き、けれど兄上は僕を離さ無かった。唯呼吸を繰り返し、目を瞑る。小刻みに揺れる睫毛に触れ、ほんのり赤い頬を撫で、僕は少し笑った。
「兄上、可愛いです。」
「十年後も、ゆわれるやろなぁ…。屹度。」
「ふふ、云って差し上げますよ。」
拗ねた様に唇を突き出す顔に一層可愛さを覚え、声を出して笑う僕は抱き付いた。
「かーわいいっ。兄上可愛いっ」
「嬉し無いわ…」
「もう、如何してそんなに可愛いんですかっ?」
「十歳に可愛いゆわれるうちて何や…」
「もう駄目ですっ。可愛くて苛めたくなっちゃいますっ」
「ほぅか…」
切ない息を零し項垂れる兄上は、僕を求めて居る時より人間臭い。其れが可愛く、堪らなく愛おしい。
だから僕は、繰り返し兄上を欲するに違いない。
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