trick OR treat


家に着いたのは十時過ぎだった。此の時間帯に為ると流石に窓の明かりは消えて居る。死者が益々喜ぶ、と云うものである。宗一は白髪の鬘を椅子に放り、犬みたく頭を振る。
「禿げんで、此れ…ほんに…」
触ると熱かった。
僕はシャワーを浴び、剥き出す歯を洗い流し、火傷跡に触れた。
化粧依りも余程だった。
寝室に戻ると、中途半端に脱いだ宗一は一人酒を飲んで居た。
「あーに上。」
後ろから手を開けたシャツに絡め、其の手に宗一はキスをした。
「なーんや?」
「だーい好き。」
「有難いなあ、此の侭冥土に連れてかれてもええわ。」
「困りますよ、ふふ。」
苦いキス、十六歳の誕生日には相応しい贈り物に思えた。
宗一の舌から伝わる苦みが段々と薄れ、仄暗い部屋にキスの音だけが響いた。時折、「きゃはは」と酒に酔った女の声が広場から聞こえる、其れも此の部屋には似合いだった。
長い長いキスだった。
頬に触れて居た宗一の手は僕をベッドに誘導し、座った宗一の足に跨がった。キスをした侭宗一は寝、覆い隠さった。
「プレゼントは?兄上。」
「うちの愛、一生分。」
随分と昔に其れは貰った気もするが、折角なので頂いた。
まさか此れが、別れを意味して居たとは、此の時の僕には理解出来無かった。
愛し合った。沢山沢山愛を貰った。
死者が自分達の世界に帰り、冥界の扉が閉まった時、僕達は身体を離した。
十六歳、其れは大人を意味した。此の日に宗一は僕から離れる事を決意し、僕は其れに従った。
独逸に来た理由、自分で自分の世界の扉を開閉する。
うちの愛一生分―――。
僕は其れを、確かに受け取り、子供の世界への扉に、鍵を掛けた。
子供の僕に菓子を与えた宗一。大人の僕は、悪戯をする事はしなかった。
悪戯は、子供の特権。
僕はもう、宗一に甘える事は出来無かった。




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