恋遊び


「時一、時一。」
後ろから声を掛けられ、時一は振り返り、そして慌てて足を其方に向かわせた。
大きな荷物を抱えた宗一の元に。
「兄上。」
「暇か。」
「まぁ。」
「ほんなら。」
どさりと、持っていた荷物を床に置き、座り込む。息を吐き、顔を乗せる。
「運ぶの手伝って。」
笑う宗一に、時一は息を吐き、髪を撫でた。
「何です、此れ。」
「んふ。秘密。」
呆れる時一に宗一は唯笑い、荷物を解いた。
中には、訳の判らない雑貨や本、衣類が入っていた。
「部屋に。」
「いや、庭。」
「庭、ですか。」
「そ。」
本を手に取り、捲る。見えた横文字に、時一の興味がそそられた。
「其れ。」
「ん、此れか。欲しいならやるわ。」
手渡された本は、横文字が並び、分厚い。感じる重みは、本本来の重さだけではない。読み込まれた其れは、空気や水分を含み、膨れていた。
「良いんですか。」
「嗚呼、もう要らんから。他にも欲しいもんあったら、持っていき。―読めるんやったらな。」
「え。」
宗一の言葉に、首を傾げる。
「其れ、独逸語。」
「英語じゃないんですか。」
「ふ。」
宗一は荷物から本だけ取り出し、積み重ねた。
「全部持ってき。」
「でも。」
英語と思っていた其れは独逸語で、時一には判らない。貰っても仕様が無い。
「教えたるわ。判る迄。」
笑った顔に、時一の心臓が、苦しくなる。
又だ、と思った。
宗一の笑顔を見る度、自分の心臓が苦しくなる。
時一には理解出来なかった。




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