My Favorite Sweet Girl.


馨が男の肩を外し、其の光景に琥珀は目を逸らした。首に手を起き、馨は男に冷めた笑顔を向けた侭、凄い音を響かせた。唯でさえ気分の悪かった琥珀は一層眉を顰め、地面に座り込んだ。そんな琥珀の姿に馨は狼狽し、慌てて身を屈めた。
酷く痛そうな顔をする琥珀。自分が来る前にまさか殴られでもしたのだろうかと、琥珀の手を握った。
「琥珀さん、琥珀さん。如何為さいました?」
話すのも辛いのか、琥珀は首を振るだけ。額に汗が滲んでいる。髪が張り付き、其れを馨は払ってやると、真白い手袋に白粉が移った。
何時から、琥珀は化粧をする様になったのだろう。
何時から、こんな女らしい身体になったのだろう。
何時から、少女から女に変わったのだろう。
琥珀の苦痛の表情等忘れ、手袋に付いた白粉を見ていた。
目を閉じ、黒目を隠した震える睫毛。高い鼻、厚い唇、透ける髪。日に当たる肌は痛そうに赤い。
本当に、全く日本の血を持た無い事を、改めて知る。
「あ…少し良くなった。今の内帰ろう。」
琥珀は目を開き、立ち上がるとスカートの砂を叩き、馨に頭を下げた。
「有難う御座居ました。」
大きな丸い目を細くし、笑う。白粉の少し取れた額に馨は触れ、余り化粧はしない方が良いと云った。自分が嫌いだからや、肌の心配では無く、化粧をしなくとも充分に可愛いからとも云った。すると琥珀は、別に自分で進んでした訳では無いと云う。薬局に行き、偶々其の薬局に化粧品を売りに来た女が居た。自分の見た目で、是非化粧をさせてはくれまいかと懇願されたので仕方無くした。其れだけの話である。
「助けてくれて本当有難う御座居ました。」
琥珀はもう一度馨に頭を下げ、ヒールを鳴らした。
「あの、琥珀さん。」
慌てた様に琥珀の背中に声を掛け、振り向いた琥珀は首を傾げた。
「何?」
声を掛けたは良いが何も云うつもりが無かった馨は無言だった。
「変な加納さん。」
笑う琥珀の顔に、胸が苦しくなり、甘い痛みが広がる。初めて知った恋患い。
愛おし過ぎて、溜息が漏れる。
「あの、何方へ。」
笑いが出る程声が震える。
「家に帰るの。あ、其の前に写真撮って帰ろうかな。」
此の姿を写真に残し、何れ自分でし始めるであろう化粧の手本にし様と、琥珀は一人頷いた。
「写真…?」
「うん。あ、もし綺麗に写ってたら加納さんにもあげます。」
「え?」
「あ、要らないですね。御免為さい。」
「いっいいえ。頂けるの、でしたら…」
願っても無いと、馨の体温が上がり、秋風の冷たさを一層感じた。胸に宿る、甘く切ない苦しさ。琥珀への思いは、吐いた息と共に秋風に乗り、琥珀の髪を揺らした。




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