御祭り騒ぎ


笛や太鼓の調子が、風に乗って来た。微かな其の音に琥珀は顔を向け、夏の匂いを知った。
屋台の匂い、綿飴の甘い匂い、金魚の水の匂い、其れに混ざる人の匂い。
買物籠を持った侭琥珀は暫く其の方向に向き、兵児帯を揺らす少女達と擦れ違った。
「祭かぁ。」
行きたい。物凄く行きたい。
日本に来て初め知った在の夏祭りの楽しさを琥珀は身体全てで思い出し、目を瞑った。
綿飴が、雲を食べて居るみたいだった。林檎飴で舌を真赤にし、かき氷で頭を痺れさせた。其処には拓也が居て、時恵が居て、龍太郎も居た。毎年四人で祭りに出掛けた。屋台で買った物を縁側に並べ、其処で買った花火をした。線香花火が彼岸花に見えると拓也は云い、暗い奴だなと龍太郎に云われて居た。掬った金魚は飼い方が判らない為数日で死んでしまったが、花火の間、桶の中で泳いで居た。
本の、少し前の出来事。なのに琥珀には随分と昔に感じた。




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