エ‐sister‐ス


女と云う動物は、先ず第一に“群れる”特徴がある。此れは人間のみ為らず、集団で生活する生き物にもある。
一番判り易い例がライオンであろう。ライオンの雌は集団で子育てをし、狩りをする。雄が一匹しか居ないので、生活を共にするのは雌と為る。其の雌の中でも順位があり、一番に気に入られた雌は二番手と為る。
ハイエナもそうだ。此方は雌が女王と為る集団なので、雌の権力が桁外れに強い。交尾も致せない雄の立場と云ったら無い。
女学校も云う為れば其れで、ハイエナに近い。強い者にはとことん従い、雄よりも強いと、錯覚さえ起こす。
聖星女学院も、まさに女の園。見渡す限り雌雌雌、のハイエナ学校だ。カトリック及びプロテスタントの小中等部両全校生徒総数六千人の巨大ミッションスクール、学標は「皆一等星として生まれ、皆聖母として生きる」、其の中で女王と君臨して居たのが両スクールの生徒会長である。
カトリックの女王は白樺聡子(ソウコ)、通称“白様”、プロテスタントの女王は黒川聡子(サトコ)、通称“黒様”。両者とも“聡子”と全く漢字が同じのややこしい女王達である。
カトリックの生徒が黒様に憧れを抱く事は御法度、プロテスタントの生徒が白様に…も同じである。
琥珀は勿論プロテスタントなので、黒様に心酔して居た。同じに愛子も。然し、学年が違い過ぎる。彼方は中等部、此方は小等部、風の噂を聞くだけ。「今日の黒様御覧遊ばして?」「見ましたわ、なんて艶やかな御髪でした事か」「ポニーテイル可愛いですわ」と聞いた日には琥珀が似顔絵描き、愛子と二人で妄想した。
此れがまあ似て居る。瓜実顔に眉の上で細かく揺れる前髪、青い程の黒髪を真っ直ぐ腰迄垂らす。
一方の白様は、丸顔の中でくりくりとした大きな目を動かし、薔薇色の頬と唇、栗色の髪を巻き、左右に揺らして居る。そうして何時もリボンやら何やら付いて居る。
要するに黒様は“東洋美人”で、白様は“西洋美人”である。其の白様の憧れは、云わずもがな、先代の加納雅――“雅様”である。
生徒会長は中等部に進級した時決まるので、任期は二年だ。二年、全生徒の憧憬と羨望を一身に受け、女王として君臨出来るのである。
愛子は勿論、其の“雅様”と其の前も知って居るが、生憎琥珀は四年からの入学なので、其の姿は知らない。
「黒様に怒られるけど、雅様見たさにカトリックに改宗し様か、御父様に相談した事あるわ」等と笑う。
女しか知らず、女を絶対とし、羨望する。そんな生活を八年も続け、もっと云うなら女子大に通えば十年近くを女の中だけで過ごす事に為る。
多少歪み、男女関係が上手く行かないのも、頷ける話である。




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