エ‐sister‐ス


昼休み、愛子と馬鹿遣って居たあたしは、行き成り静まり返った教室に吃逆が出かかった。黒様の側近、副会長のセイラ様が教室に現れたのだ。彼女は英吉利人との合いの子で、白様に雰囲気が似て居る。ピンク味掛かった白い肌に、濃紺の靴下が良く似合う。黒様は青白い程の色白だ。
セイラ様は静まり返る教室を見渡し、あたしと目が合うとちょこんと首を傾げた。
「井上、琥珀さん?」
鼻から牛乳が出るかと思った。
頷く事も出来ず、だらし無く開いた膝を合わせると慌てて鏡を見、前髪を整えた。
パン、パン、食べたサンドウィッチのパン屑が……!
牛乳は出て居なかったので安心した。
セイラ様は薄く笑い「御免遊ばせ、続けて結構よ」と、生徒に云うが、とてもで無いがセイラ様を前に談笑等出来無い。
なんて、なんて芳香。一体何処からそんな良い匂いをさせて居るのか、鼻が動く。
「うふふ、可愛い子。」
耳迄真っ赤にするあたしに白い手と、青い封筒が向けられた。
此れは、所謂“青紙”。
「え…?」
青紙とは、黒様からの手紙である。当然硬直するあたしは、机に置かれた青紙に眼球揺らし、膝が震えた。セイラ様でも腰が抜けそうなのに、黒様からの御手紙。幻覚では無いのか、或いは妄想が進行したか、青紙は二重にも三重にも見えた。
「では御機嫌よう。」
片方の爪先を床に付け、少し身体を低くしたセイラ様独特の挨拶は見えなかった。
「え………?」
生徒から手紙が来ると云う事は、詰まりエスの御誘い。
井上琥珀、人生最大の倖せを受けました。此の先一生不幸で良い、人生の倖せ使い果して仕舞いました。
瞬間教室は黄色い声に溢れ、初めて目の当たりにした青紙に皆興奮して居た。目の前に座る愛子は驚きと嫉妬、そして裏切ったなの目であたしを睨む、睨む、只管睨む。
「井上さん凄ぉいッ」
「いや…何かの間違いよ…」
そうで無ければおかしい、黒様があたしを知り、尚且エスの誘いをする等。
牛乳を一気に飲み干した愛子は外方向き、黒様には勝てないものね、と不貞腐れた。
「愛子ぉ…」
「早く開けば?そしてワタクシを捨てたら?」
「嫌だよぉ…」
「ふん。」
愛子にだってあたしにだって、エスの相手は居る。あたし達だって一番のエス同士だ。が、黒様は次元が違う。あたしが愛子の立場なら、同じに不貞腐れ、焼き餅焼くだろう。最悪嫉妬で青紙を燃やすかも知れない。
「琥珀御姉様ぁ、愛子御姉様。」
子犬の様な声がした。
「あ、嗚呼すみかちゃんか。」
「すみかさん、来ては駄目よッ」
すみかちゃん、とは一つ下のエス相手だ。生まれたての子犬の様に可愛い。何時も「琥珀御姉様、愛子御姉様大好きですわ」と尻尾を振る。何方か単独で好きな訳では無く、二人で対に為るあたし達を理想としてくっついて来る。
「先程の授業でクッキー焼きましたのぉ、御姉さ…………嫌ぁあ…ッ」
あたしの手にしっかり握られる青紙にすみかちゃんはクッキーを落とし、そんなの酷いわ愛子御姉様への裏切りですわ、と教室から逃亡した。拾おうとしたあたしに「あんたに触る権利は無い」と愛子が強奪した。
「すみかさんの愛はワタクシだけの物よッ」
「いや、嘘だよッ、あたしにも食べる権利は…」
「無くてよッ、すみかさんが示してよッ」
云って愛子はバリバリと二三枚纏めてクッキーを食べる。
「早く読めばッ?」
「家に帰って読むんだよッ」
「ふんッ」
糞面白くない馬鹿女郎と悪たれ、クッキーは消えた。然し愛子も優しいの、残骸をあたしの口に流し込んだ。




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