エ‐sister‐ス U


別に其処迄、馨が云う程不思議では無い。向こうが女の園育ちなら、俺達とて雄臭い男集団育ち。男の園、と云わないのが面白い。こう表すと一気に衆道臭く為るから不思議だ。
何だ知らんが、美少年と美青年が「おや御機嫌よう」「今日も良い天気で」等爽やかに挨拶して居そうだ。女の話等皆無で。
実際そんな訳は無い。
男臭い事此の上無く、むんむんと熱気篭って居る。馨の様な美人ばかりならそら俺とて多少目の保養に為り、有難い話だが、そんなのは本の一握り。男臭い通り越し雄臭い連中ばかりだ。
芋、ゴリラ、猿、何処を見てもうんざりする。故に女人を見た時驚く。細くて小さくてオマケに良い匂いがして…向こうも向こうで、女とは全く違う此方の身体付きに無言に為る。
女同士の場合、相思相愛的に「御姉様」「妹よ」で楽しい雰囲気を見せるが、男同士の場合は年上からの「おい舎弟」の一言で終わる。平等では無く、絶対為る服従姿勢。そんな中で生きて来たものだから、馨の目に女達の所謂“エス関係”が奇妙に映るのは当然だった。
怪しいから探りを入れろ、と云われたもの、如何切り出して良い事やら。「馨が君達の関係を有らぬ方向に勘違いして居るよ」と教える可きなのか。果たして其れが女達に伝わるか。相思相愛から為る信頼の証だから、此方と同じと考えてはいけない。
馨が俺を使い、俺が馨に従うのは、此れ男子校の“絶対服従”の仕来たりなのだ。決して君達女の様に、相思相愛から為るものでは無い事、覚えて於いて頂きたい。
「愛子ちゃん。」
「はい。」
今日も華麗です、俺の恋人は。
「琥珀ちゃんの事、好き?」
ミルクティを飲んで居た彼女は質問の意味を全く理解して居ない目で俺を見上げた。
「ええ、勿論。大和様程に。」
「ですよね。」
「はい。」
上品に笑う彼女に釣られて笑い、会話が終了して仕舞った。こんな詰まらぬ報告をすれば、馨に殴られる。
「おいと琥珀ちゃん、同時に明日遊ぼうと云われました。愛子ちゃんはどっちを優先するね?」
チョコクリームの線を残すフォークをナプキンで拭き、静かに皿に寝かせる。其の指先が奇麗で、期待も込め、掬った。
「三人で遊びましょう。」
其の笑顔に頷いた俺は阿呆なのかも知れない。




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