エ‐sister‐ス U


「やけんね、馨、おい達から見たらレズに見えるけど、あら違うばい。」
そう何度云っても馨は頷かない、何故って?彼の妹が真正だから。
「雅はホンモンばい。ばってん、あん二人は違う。」
「ならば何故ワタクシが居ない時、愛子可愛い、琥珀可愛い、とソファで囁き合って居るのです、え?」
此の理由、ワタクシが納得する迄述べろと、能面を痙攣さす。
ソファだろうがベッドだろうが人前だろうが、囁き合うものは囁き合う。其れが確認なのだから。俺が馨に従い、結果を見せる事が服従の証の様に。
然し、夫不在の家で琥珀ちゃんは何をして居るのか。
「レズが男と結婚する訳無かろうもん、雅見てみんね。男装して女引っ掛けて……其れが真正やろうもん。」
「雅は頭がおかしいんです、一緒にしないで頂きたい。」
「其のおかしか妹と一緒に見とうとは馨やろうもん。」
絶対に在の二人は違う、と言い張ったもの、べったりと、守宮が壁に引っ付く様な二人を見て居ると、馨の不安が判らない訳では無い。
男同士に絶対無いのは、そう、此の過剰な迄のスキンシップだ。男同士にスキンシップは皆無に等しい。意味無くスキンシップする男同士は一つ、ホモ、其れだけだ。
居た居た学校にも、「何でくっつくんだよ」と親友に云われても全く理解出来て居ない男が。大概其の男はホモだったりする。で無ければ、あんなむさ苦しいの判り切ってる身体に引っ付く筈が無い。女の身体になら幾らでも引っ付いて居られるが、男は如何も…
「何で二人は何時も、引っ付いとうと…?」
馨が聞けない代わりに聞いた。
二人は鼻先すれすれに顔を見合わせ、同時に首を傾げると又腕を絡ませた。
面白いのが、琥珀ちゃんが必ず彼女の腕に引っ付き、彼女がすんなり受け入れて居る、と云う体勢だった。彼女が琥珀ちゃんにべったりし、何時もなのよ、と云う顔で琥珀ちゃんが珈琲を飲んで居るなら、真正は彼女と為る。彼女の片思いで話は終わる。
逆だから、一層不思議なのだろう、馨は。
「愛子にくっついてると落ち着くから。」
「可愛いでしょう。」
うふふ、と云われても「そうですか」としか返せない。
人前でも変わりない二人。
四人で遊びに行って居る在る時の事だ、話の最中行き成り彼女が「うふふ、そうなの、そうなのよ」と琥珀ちゃんの腕に絡み付き、頬をぺったりと寄せたのだ。俺達からして見たら衝撃的な場面だが、二人も、又、通行人の女達も何食わぬ顔をして居た。
女兄弟が居る学友の話を聞いても、「母と姉は、何時も何かしら引っ付いてる」と云う。
詰まりはそう云う事なのだ。
何方かが母親で、一方が娘なのだ。二人の場合は、彼女がしっかりした性格なのと、琥珀ちゃんが父親にべたべたに甘やかされて育った結果で、立場が決まったに過ぎない。
二人を知ってから街を良く見て歩く様に為ったのだが、女達は何かしら触れ合って居る。手を繋いで歩いて居たり、並んで座って居たり。男同士では考えられないスキンシップを挨拶の様にして居る。化粧をし合ったりするのも、此の延長に為る。そうして可愛い可愛いと互いに褒め合い、満足して居る。
男から見たら、凄く気持悪い事なのだが。
気持悪い、と云われても「え?何で?」と答え返すのが二人、真正の場合、「まあそうだろうね」で終わる。実際雅にそう云われたから。序でに「私から見たら男にべたべたしてる女の方が気持悪い」と迄言い放った。
然し。
馨を見て居て思うのだが。
「馨って、愛子ちゃんタイプの顔しとうよね。」
「知ってます。典雅美人でしょう。そんなに褒めて頂かなくとも、ワタクシの顔が女顔なのは知って居ます。何年此の顔で生きて居ると思うんですか。」
馨は、自分の顔が嫌いだったりする。幼少時代から美人だ美人だと云われ、父親が如何にもな九州男児の顔付きをして居たから尚嫌いだった。男が美人で一体何の得に為る、まさに其の通り、「加納は芸者顔」と云われた日には母親に「何故こんな顔に産んだ」と当たり散らした。
だから尚更、馨より先に彼女が琥珀ちゃんと知り合った、彼女が後なら「馨に似てるもんな」と考えれば済む、逆だから困るのだ。
愛子に似た顔、だから好き、では非常に困る。
絶対一番で無ければ気の済まない男、其れが我が親友、加納馨だ。女に負ける等、プライドが許す筈が無いのだ。
「諦めんね、馨。あん二人は、絶対何が遭っても引き裂かれん。」
「何故です、友情等、そんな物…ッ」
俺しか友達が居ない馨が云うと、妙に納得して仕舞う。友情でさえ利害関係でしか考えないのだから。
「友情に、離婚は無いとよ。永遠ばい。」
「……ワタクシ達とて離婚等しませんよ、全く全くッ」
そう馨は云って居た。其れはもう鼻息荒く、確かな確信の元云った。
なのにあっさり捨てられたのは、何でやろうね…?
「あらだって、加納様は旦那様ですもの。旦那の代わりは、幾らでも居るんですのよ。妻も又然りですわ。」
云われて納得。
俺も、馨の代わりは何処にも居ない。




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