夢と思い出


「ヘンリーって、女もいけるのか?」
カードと睨めっこして居るブラッドは、ヘンリーの表情を盗み見した。煙草を咥えた侭少し煙たそうに目を細め、ハロルドはカードを一枚、山から取る。
「ブラッド、カード取る?」
質問の答えは無い。
「いや、此の侭行く。ストレート。」
「残念、俺はフルハウス。」
「畜生…」
項垂れるブラッドにハロルドは笑い、チップをごっそり取って行った。ブラッド現在、五連敗中。
カードを集めたグレンは云った。
「ストレートって、そっちの意味?」
色を蓄えたグレンの口は動き、重そうな睫毛は目元に影を作る。ルカはポーカーのルールを知らないので、兎の縫いぐるみを抱いた侭、グレンの真向かいでにこにこ座る。ルカがルールを理解すれば、一番強い筈だ。
ブラッドは厭らしく笑い、煙草を吸った。
「で、ヘンリー。実は女もいけるんじゃ無いのか?」
「うん。」
配られたカードを見乍らヘンリーはすんなり答え、ブラッドは煙草を落とした。冗談で聞いたのだが、まさか此の答えが来るとは思って居なかった。
「うん、って…」
「女も経験あるよ。………最後迄じゃないけどね。」
「一寸聞かせろよ。」
ポーカーそっち退けで食い付き、結果ブラッドは六連敗した。ブラッドが極端に弱いのかハロルドが強いのか、グレンは考えるのも馬鹿らしくカードとチップを箱に仕舞った。ルカに渡し、きちんと仕舞ってくれた。
「如何にかなると思ったんだけどね、結局立たなかったよ。」
あははは、と豪快に笑いテーブルを叩く。
「其処で、嗚呼本当に俺は男しか駄目何だって気付いた。」
グレンは複雑な顔で、ブラッドは苦笑いした。
「名前は?」
「リサ。奇麗なダークヘアだったよ。」
「リサ…?」
「彼女?」
「いや、一番最初にレイプした女がリサって名前だった。ブロンドだけどな。」
「ブラッドって、レイプした女の名前、一々覚えてるの?」
気持悪い、とグレンは身震い起こし、其れを消す様に冷めた珈琲を飲んだ。
「嗚呼。俺は紳士だから、名前を呼んで犯してやるんだ。」
「まあ…、紳士的だ事………」
ヘンリーは無言で笑い、聞く。
「愛してるよ、誰よりも。俺と君の子供は、世界で一番可愛いさ。…………一丁出来上がりっ」
指を鳴らし、ブラッドは笑う。
ブラッドの中では、女をレイプする際にきちんとした信念がある。名前を呼んで、優しく傷を深い処に刻む。
「殴って、快楽に任せて女を抱いたらいけない。優しい言葉を掛けて、将来旦那に云われるであろう言葉を云う。云われる度に女は俺は思い出す。旦那が優しい言葉を掛けば掛ける程、恐怖に震える。」
魔のトライアングル、最高の図面、此れぞアートだとブラッドは云う。
ブラッドは十年程前迄は有名なアーティストだった。奇天烈な石像を作り、けれど其処には確かに芸術性があり天才とさえ呼ばれて居た。其れが薬に溺れ、ブラッドが見付けた、探し続けた芸術は、“女を犯す”と云う正に社会への反骨作品だった。
ブラッドがレイプをするのは性的快楽の為では無く、アートの為だった。犯した女達こそがブラッドの作品で生きる芸術品。
――I'm not a Rapist, an Artist...
性犯罪史上最悪で最高な名言、彼は確かにアーティストだ、けれど神は彼を許さない、ブラッドは、新聞と云うカンバスに作品として載った。
「俺が思うに、レイプした女を殺す男は、紳士だと思う。傷の中で生きるのは辛いさ。」
「抑紳士はレイプ何てしないわよ。」
「そうかな、紳士でも支配願望位はあるさ。レイプ願望は判らないけど。」
「もう、何なの…。此の二人…」
重そうな睫毛は震え、滑らかな額に皺が出来る。ルカは相変わらずにこにこ、兎と遊んで居る。
「ルカだけは、全うな大人になって頂戴…」
「うんっ」
大人に汚されたルカの笑顔は、汚れた大人達には眩しい笑顔だった。




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